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馬体の見かた講座
馬を見る上での考え方から各馬体パーツの基本、種牡馬毎の特徴、専門家へのインタビューも
治郎丸敬之 著 / 連載中

38.【種牡馬別】シンボリクリスエス産駒の見かた

今年の日本ダービーは久しぶりに絶叫しました。私が本命に推したレイデオロがスタートからなかなか行き脚がつかず、後方からのレースを強いられることになり、ところが向こう正面で突然に2、3番手のポジションまで上がって行ったのです。競馬のレースを数多く観てきた方であればあるほど、道中で脚を使ってしまい、最後の直線は案外伸びないパターンだと感じたはずです。

私も半ばあきらめの気持ちを持って直線の走りを見守っていたところ、意外や意外、レイデオロは先頭を奪われることなくラスト1ハロンまで走っているのです。その瞬間、私の中からもうひとりの私が現れて、「そのままぁ!!」と東京競馬場中に響き渡るのではと思われるほどの大声で、レイデオロとルメール騎手の背中をあと押ししたのです。たとえ単勝馬券だけであっても、日本ダービーを勝つことがこれほどまでに嬉しいということを再認識しました。

レイデオロという馬を観ていると、父キングカメハメハというよりは、母系の面影が強い馬だなとつくづく思います。非凡なスピードと瞬発力はレディブロンド譲り、聡明な顔つきと賢さはシンボリクリスエスに似ています。そんな過去の馬たちに想いを馳せつつも調べてみると、実は3着に入ったアドミラブルも母の父がシンボリクリスエスでした。もうシンボリクリスエスが母の父となる時代がやってきたのかと我に帰り、今一度、種牡馬としてのシンボリクリスエスを見つめてみようと思いました。ということで、今回はシンボリクリスエスについて語っていきます。

完璧な馬体を誇っていた馬

シンボリクリスエスは3歳時よりも4歳時の方が圧倒的に強かったように、この馬は典型的な晩成型の馬でした。3歳時に日本ダービーを2着したときも、ようやく間に合ったという出来であり、馬体にも緩さが残っていて、大きな身体を持て余していたほど。古馬になって馬体に芯が入ってからが本領発揮でした。最も印象的なレースは、2003年に制した天皇賞・秋と有馬記念の2つです。天皇賞・秋では最後の直線で飛んでいるように見えましたし、ラストランの有馬記念はゴール前で拍手を送る余裕のある完勝でした。

私の記憶にある限りでは、ラストランをあれほどの楽勝で飾ったのは、ディープインパクトとオルフェ―ヴル、そしてシンボリクリスエスです。このことが意味するのは、ひとつは後先のことを考えることなく100%の仕上げを施されたら他馬が影を踏めないほど強い(能力が高い)ということ、もうひとつは、まだまだ走れるにもかかわらず余力を残して種牡馬入りしているということです。種牡馬として成功しない理由はないのですが、あまりにも(非サンデーサイレンス系の種牡馬としての)期待が大きかったからか、種牡馬としてのシンボリクリスエスは今のところ期待外れという評価をせざるを得ないのではないでしょうか。

まずはシンボリクリスエス自身の馬体を見てみましょう。どの写真を見ていただいても構いません。 それほどに、非の打ちどころのない完璧な馬体を誇っていました。黒鹿毛だからこそ余計に見栄えもするのですが、毛艶も光り輝いて、手肢だけではなく胴部や首にも十分な長さがあって、大きな骨格に支えられた美しいシルエットの馬体です。私が理想とするサラブレッドの馬体として昔からスペシャルウィークを挙げてきましたが、シンボリクリスエスも同等だと考えています。サラブレッドの絵画から抜け出してきたような理想的な馬体です。表情(顔つき)も実に聡明であり、耳も大きく真っ直ぐ前を向いており、人間に対する信頼感を物語っています。そういえば、シンボリクリスエスは担当の厩務員さんと相思相愛の関係にあったと聞いています。ラストランとなった有馬記念を走り終えたあと、厩務員さんに寄り添うように歩いていましたね。つまり、とても賢くて、人間の言うことを素直に聞く、おっとりとした性格の馬でした。

ところが不思議なことに、産駒は気性が激しい馬が多く、それがレースに行っての前向きさに変われば走りますが、そうならない馬は大きな活躍をできないままターフを去ることになりました。エピファネイア、ストロングリターン、サクセスブロッケン、サンカルロなど、シンボリクリスエス産駒の活躍馬を上から並べて行くと分かるように、ほとんどが牡馬で占められています。牝馬の場合は、気性の激しさがカイ葉食いの悪さやレースに行って気持ちをコントロールできないことに直結してしまうのでしょう。このあたりはステイゴールド産駒に似ていますね。

シンボリクリスエス産駒に気性が激しい馬が多い理由としては、様々な意見があると思いますが、私はサンデーレイレンス(もしくはサンデーサイレンス系)の肌馬を中心として配合されたからだと考えています。つまり、サンデーサイレンスの気性の激しさが、そのまま産駒に伝わっているケースが多いということです。大きな期待をかけられ、サンデーサイレンスを父に持つ良血馬に配合されたのは良かったものの、残念なことにサンデーサイレンスの気性の激しさが伝わってしまい、せっかくの競走能力や馬体の良さを生かせずに終わってしまった馬が多かったということになります。

活躍したシンボリクリスエス産駒のクラブ馬

それでは、シンボリクリスエス産駒の走った馬の馬体を見ていきましょう。 …
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第38回 【種牡馬別】シンボリクリスエス産駒編
著者
治郎丸敬之
新しい競馬の雑誌「ROUNDERS」編集長。週刊Gallopにてコラムを連載中。当コラムの書籍も発刊
馬体の見かた講座
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