一口馬主のしくみ・法的位置づけ
競走馬ファンドという形態
ここでは、一口馬主の詳しいシステムを、主に法的な面から解説していきます。
JRAにおいては、公正競馬を保つ観点から、馬主資格を持たない人物が共同馬主となる、いわゆる名義貸し行為が認められない事から、一口馬主は商品ファンドという形を取る形態が考案され、法的には金融商品として扱われます。少し複雑ですが、金融庁の監督のもと、健全な運営がなされるような仕組みが取られています。
[ 図・一口馬主クラブのしくみ・関係図 ]
各クラブは基本的に「愛馬会法人」と「クラブ法人」という2つの法人より成り立っています。
例えば、「マイネル」の冠号で知られ、一般的には「ラフィアン」の愛称で呼ばれる一口クラブは、正式には愛馬会法人である「有限会社ラフィアンターフマンクラブ」と、クラブ法人である「株式会社サラブレッドクラブラフィアン」という2つの法人から成り立っています。この2つの法人は、代表者名義こそ異なりますが、資本や人的関係など、同じ企業グループに属する、いわゆる兄弟会社のイメージです。
このうち、実際に募集馬を購入し、会員からの出資を募り、出資契約を締結するのは愛馬会法人です。この契約を匿名組合契約と呼びます。
匿名組合である愛馬会法人は、JRAの規約上馬主資格を持てず、このままではレースに出走させることはできないため、愛馬会法人は、馬主資格を持つクラブ法人に対して、競走馬を現物出資します。
クラブ法人は、馬主として出資馬をJRAに競走馬登録、そしてレースに出走させます。獲得した賞金は、今度は逆の流れとなり、まずクラブ法人から愛馬会法人に分配され、さらに愛馬会法人から会員に分配されます。
法的な側面から見ると、両法人は、金融商品取引法による規制を受ける、第二種金融商品取引業者として、国(所在地の財務局)に登録されています。具体的には、金融庁によって登録時に審査を受け、また日々の運用業務に対しても、同庁および自主規制機関である第二種金融商品取引業協会から、監査や指導が行われます。
ここでいう第二種金融商品取引業者とは、集団投資スキーム、いわゆるファンドを取り扱う事業者として法律で規定されており、これとは別に、証券会社やFX事業者などは、第一種金融商品取引業者と区分されます。
資産運用が一般的になった時勢に応じて、こうした第二種金融商品取引業者の数も年々増加していることから、金融庁がファンド運用に求める基準、要件も厳格化の傾向にあり、クラブの対応もなかなか大変だと聞きますが、裏を返せば、一口馬主の視点で見た場合、より安心して出資できる環境になっていると言えるでしょう。
JRAとの関係、馬主としての位置づけ
続いては、JRAにおける一口クラブの位置づけについても説明します。
JRAにおける馬主の種類としては、
・個人馬主
・法人馬主
・組合馬主
の3形態がありますが、一口馬主クラブは先述の通りクラブ法人が馬主登録されているため、「法人馬主」という位置づけになります。ただし、先ほどの図を見ても分かるように、クラブ会員とJRAには直接的な関係はなく、不特定多数から出資を募るという意味では、法人馬主の中でもやや特殊な位置づけの存在となります。そのため、JRAと各クラブからの代表出席者が一堂に会する連絡会が定期的に開催され、またそれ以外でも個別に相互の意思疎通、情報共有を行い、業界のクリーンな体質を維持できるような体制がとられています。
ちなみに上記のうち、字面からは「組合馬主」が一口馬主に近そうなものですが、組合馬主とは、10名以下の特定少数で組織され、全組合員が収入などのJRA審査基準を満たす必要があり、組合の掛け持ちもできないなど、不特定多数が任意に参加する一口クラブとは大きく異なる存在です。
その他、一口クラブと似た存在に、共有馬主やオーナーズといわれる、主に大手生産牧場が主宰する、個人馬主を対象にした会員組織の存在もあります。おおむね10分の1程度に分割されるため、金額は大きくなりますが、一頭の馬を疑似的に均等分割して所有する形態という点では、一口クラブとよく似ています。ただし、オーナーズの場合、実際の個人馬主の資格を持つ馬主に参加資格を限定しているという点において、一口馬主とは根本的に異なりファンドではなく、あくまで個人馬主間の任意契約という扱いとなるため、法的根拠も一般の契約同様、民法となります。上記の馬主の種類においては、共有者の代表名義(通常、運営母体牧場の代表)による「個人馬主」の形態の一つとなります。
実際にはさほど気にせずに
クラブ会員が実際に一口馬主ライフを楽しむにあたっては、上記のように2つの法人が介在することや、JRAや金融庁との関わりを意識する場面はほとんど無く、あくまでクリーンに法的要件を満たすために、このようなシステムがとられているということを理解しておくだけで十分です。
その中で、2つの法人体であることを意識する場面としては、レースに出走する際はクラブ法人の名義になりますので、競馬新聞などの馬主欄には、会員としては普段あまり接する機会のない、クラブ法人名の方が記載されるということがあります。また、金融商品という意味では、株式口座の開設などと同様、クラブに入会して支払いを受ける際には、マイナンバーの提出が義務付けられます。