2023-09-30現在データ
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一口データ研究室
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-連載中-
レポートNo.003 |

父と同じ毛色の産駒は走る?

毛色がおよぼす影響は?

今回は、「毛色」がテーマです。

出資検討時には、「栗毛が好き」「黒っぽい馬が好き」など、あくまで容姿の好みとして、募集馬の取捨選択に反映されるケースがあるかと思いますが、「栗毛は強いから好き」のように、毛色と競走成績を直接結びつけて出資を行う方はほとんどいないと思われます。

一方で、以下のような考え方を耳にしたこと、あるいは実際にお持ちの方もいるのではないでしょうか。


父と同じ毛色の馬は走る
 (あるいは、父と異なる毛色の馬は走らない)



馬券の世界で非常に有名であった某予想家の方も、上記のような考えをお持ちであったと言われています。


これはおもに、種牡馬の影響が強く出ている馬、つまり優秀な競走馬であった父に似ている馬は、優秀な部分も多く受け継いでいるであろう、という論法によるものと思われます。

サンデーサイレンス旋風が吹き荒れた当時、黒っぽい色のサンデーサイレンス産駒は強く見えた、といった印象も広義ではこれに当てはまるかもしれません。

もちろん、実際には毛色だけではなく、馬体のパーツも見ていかなければ、その馬が本当に父に似ているかどうかは言えないはずですが、毛色は誰でも等しく入手できる、容姿に関する唯一の定量的な要素であるという意味で、再現性やデータとしての使い勝手の良さがあります。もし本当に父と産駒の毛色に成績との関連性があるのであれば、出資時の検討要素にいれる価値はありそうです。

毛色を決める遺伝子の働き

馬の毛色を取り上げるにあたり、避けて通れないのが、遺伝学的観点からの考察です。

実は、競走馬の毛色を決める遺伝子は、おおむね解明されています。詳しくは本ページ最後に付録としてまとめましたが、ここでは簡潔に要点をあげます。

・毛色決定に関わる主な遺伝子は4つある。
・遺伝子は父母由来の組み合わせで構成されるため、4x2=8個の遺伝子が影響する。
・これら8個の遺伝子の組み合わせに関する、6つのルールにより毛色が決まる。

というものです。
俗にいう「栗毛の法則」「芦毛の法則」といった特殊な規則性も、上記の範囲で説明が付けられるものです。

ただし正確には、「鹿毛と黒鹿毛」および「栗毛と栃栗毛」を分ける遺伝子はまだ解明されていないため、実際にはもう2つほどの遺伝子とルールが存在するはずです。

遺伝子連鎖の可能性

さて、これらの4つの遺伝子自体には競走能力を左右する要素は無いと考えられているため、毛色に関する遺伝子と競走能力とを、直接的に結び付けることはできません。

また、先ほどの「毛色が同じなら種牡馬の影響が強く出ているはず」といった理由づけは、毛色を決める遺伝子の役割がほぼ解明された今となっては、否定せざるをえません。

しかし一方で、毛色に関する遺伝子がほぼ特定されつつあるということで、「父と同じ毛色の馬は走る」ことが、遺伝学的に説明可能な余地も出てきた、という考え方もできます。

例えば、「特定の毛色を決める遺伝子と一緒に、競走能力に関連する遺伝子が連鎖して遺伝する規則性があれば、産駒の毛色と競走成績の間に、一定の傾向が見られる可能性がある」という考え方もできるからです。詳細については、長くなりますので本稿最後の付録で説明させて頂きますが、連鎖自体はほとんどの生物で広範囲に起きる現象ですので、あながち突拍子もない仮説でもありません。

ここでは、この仮説が正しいかどうかは別にして、毛色決定の遺伝子が明らかになった今でも、「父と同じ毛色の馬は走る」ということが論理的に説明可能な余地がある、ということで検証を進めていきたいと思います。ただし遺伝子を考慮することで、検証において制約を受けるケースが若干出てきます。

毛色分布の推移

前置きが長くなりましたが、それでは、データを見ていきましょう。

まずは、全体的な毛色分布を確認しておきます。以下はJRA登録馬の、現4歳世代までの出生年度毎の毛色分布状況を20世代ほどまとめたグラフです。
グラフ下部の鹿毛が最大勢力で現在でも約40%のシェアを誇りますが、1990年産の54%からは大きく落としています。グラフからも、段階的に下落傾向にあることがうかがえます。昔は2頭に1頭は鹿毛だったのが、そろそろ3頭に1頭まで減りそうです。

代わって台頭してきたのが、中央付近の黒鹿毛と青鹿毛、青毛の、いわば黒っぽい毛色で、1990年産では3毛色あわせても16%と、栗毛以下であったのが、現在では26%と、栗毛を追い抜いて躍進しています。

これはやはり、青鹿毛のサンデーサイレンスが日本競馬を席巻したことにより、後継種牡馬はもちろん、繁殖牝馬にも多数の血を残していった影響が強いものと思われます。遺伝学的に言えば、「ASIP」遺伝子のAt及びaタイプを持つ馬が増えた結果ともいえます。ちなみにサンデーサイレンス産駒に限ると、黒系毛色の比率は39%となり、鹿毛の35%を逆転します。

父と同じ毛色を持つ馬と、そうでない馬の競走成績比較

それではいよいよ、父の毛色との関係が成績に与える影響について、分析を行っていきたいと思います。 …
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全文6652文字 (現在2110文字まで表示)
毛色を決める遺伝子の働き / 遺伝子連鎖の可能性 / 毛色分布の推移 / 父と同じ毛色を持つ馬の競走成績 / 父の毛色別の傾向 / 種牡馬別の傾向 / 付録

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著者
一口馬主DB 編集部