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馬体の見かた講座
馬を見る上での考え方から各馬体パーツの基本、種牡馬毎の特徴、専門家へのインタビューも
治郎丸敬之 著 / 連載中

2022年ウインレーシングクラブ推奨1歳馬を見てきました

コスモヴューファーム見学インタビュー2022
ウインレーシングクラブの取材に、コスモヴューファームまで行ってきました。8月1日より募集開始される今年度のラインナップの中からおすすめの5頭を見学するためです。今回は代表の岡田義広さん自らにご案内いただき、独自の配合論なども交えていただきながら、馬を見る上で参考にもなる密度の濃いお話を聞くことができました。

また、昨年秋にオープンした話題の新坂路コースも見学させていただきましたので、まずはその模様をお届けしたいと思います。

コスモヴューファーム エルフ分場に新設された坂路コース
弧を描き巨大な蛇のようなうねりのある迫力だ


全長1000m、高低差50m、勾配は最初が2~3%となだらかに進み、それから8%と上がり、最後が18%とグッときつくなる3段階です。砂が敷き詰められており、想像していたよりも深くて、一歩一歩かなりの力を入れなければなかなか進んでいきません。体感的には、鳥取砂丘の砂ぐらいの深さでした。

砂は深く慣れない人間は歩くのも一苦労



── それでは坂路についてお話をおうかがいします。この3段階の勾配は、意図的というか、何か理由があるのでしょうか?


(株)ウイン代表 岡田義広氏(以下、敬称略) もともとの山の地形に合わせてつくったということもありますが、なだらかな平均勾配の坂路にするのではなく、手を加えて勾配にメリハリをつけることにしました。そうすることで、坂路コースの中にフラットコースも組み入れることができると考えたからです。

フラットコースと坂路コースには、それぞれにメリットとデメリットがあります。フラットコースは全身運動ができますが、心肺機能を鍛えるためには何周もしなければいけません。そうすると、馬には膝や球節などの脚元に関するリスクが生じますし、人間側にも馬に負担をかけることなく上手にコーナーを回るための技術が求められます。

一方で坂路コースは、重心が後ろに行って前肢に負担がかかりにくいため調教中の怪我をしにくい、坂を上るので馬が勝手に疲れてくれて心肺機能を鍛えやすいといったメリットがあります。また、乗り手にそれほど高い技量が求められません。ただし、坂ばかりではどうしてもレースで走るような身体の使い方ではなくなってしまい、完歩の小さいピッチ走法になりがちです。

つまり、理想としては「フラットコースで走る前に心肺機能に負荷をかけておくことができれば良い」ということになります。この新しい坂路では、18%の勾配を駆け上がった後、疲れた状態のまま最後のなだらかな直線で全身運動をさせることができるのです。


── なるほど、理にかなっています。フラットコースと坂路コースの良いところ取りをした融合形ということですね。実際に歩いてみて、18%の勾配はかなりきついことが身体で分かりました。


岡田 この坂路は絶対に成功させようと思って、私自身が重機に乗って砂を運んだりして、手づくり感も満載です。何から何までということではありませんが、できることは自分たちの手でやろうと考えています。厩舎や洗い場もできるところは自分たちで工夫しながらつくりました。だからこその愛着がありますね。


ゴール付近の直線はフラットに近い勾配になっている



この坂路で鍛えられる馬の活躍が楽しみです。続いてはいよいよ本年募集馬のインタビューです。岡田代表には今回、5頭の推奨馬をピックアップいただきました。


※以下、当日の取材順に掲載を行っており、各馬の並びは推奨の順位を示すものではございません。
※冒頭カタログ写真以外の各馬写真、インタビュー内容は2022年7月中旬時点。

【1】イクスキューズの21(・募集番号 2)

6/7 美浦 鈴木伸尋 厩舎予定
ゴールドシップ (母父 ボストンハーバー)
3200万円 / 400 (1口 8万円)
まずは、1頭目のイクスキューズの21が私たちの目の前に現れました。この時期の1歳馬であり、かつゴールドシップ産駒ということも踏まえると、もっと煩い面を見せるのかと思いきや、実に大人しく立っています。

── 想像していたよりも大人しいですね。


岡田 昼夜放牧をずっと行っていますからね。四六時中動き回って、厩舎に戻ってくるのは数時間ですから、これはフラットな(落ち着いている)状態というということです。イクスキューズの仔ですし、なおかつゴールドシップが父ですから、馴致が進んで育成が始まると少なからず煩さは出てくるはずです。

イクスキューズの仔は小柄な馬が多かったのですが、この馬は6月生まれにしては大きく、私はイクスキューズの最高傑作だと思っています。半兄のウインイクシードも(もちろん牡馬という影響もありますが) 大きく出たのですが、このイクスキューズの21は遅生まれにもかかわらず成長力というか、馬体が大きくなるスピードが速いですね。ご覧のとおり、馬体全体のバランスが良いですし、繊細でしなやかさがあります。

ゴールドシップの牡馬は、時計の掛かる馬場やコース形態を得意とする傾向があるのですが、この馬に関しては足運びに軽さがあって、重苦しいところがないですね。


── イクスキューズは毎年コンスタントに仔を産んで、そういう意味でも名繁殖牝馬ですよね。イクスキューズの仔を見続けてきた岡田さんが最高傑作とおっしゃるのであれば、説得力があります。


岡田 毎年「このような仔が生まれるのではないか」とイメージして配合しますが、そうならない場合も多く、お母さんに似た仔を出す繁殖牝馬もいれば、全く似ていない仔を出す繁殖牝馬もいます。繁殖牝馬によってタイプが違いますね。同じことは種牡馬にも当てはまります。

そんな中で、お母さんはどの馬に似ているのかと考えるようにしています。例えばハーツクライの牝馬だからといって必ずしもハーツクライに似ているわけではなく、どの特徴が出ていて、どの部分が出ていないのか、見極めなければいけません。その上で、硬い繁殖牝馬には柔らかい種牡馬をかけてみようとか、緩すぎる繁殖牝馬には硬めの種牡馬を配合してみようなどと試行錯誤しています。

イクスキューズは運動神経の良い馬なのですが、小さい種牡馬をつけると産駒が小さく出てしまいますので、ダイワメジャーやマツリダゴッホ、マンハッタンカフェ、ゴールドシップなどの比較的大柄な種牡馬を配合してきました。


── イクスキューズ自身はデイリー杯クイーンカップ(G3)を勝っているように、マイル前後の距離を中心に活躍した馬でしたので、ウインイクシード(中山金杯G3・2着など)や、この馬の全姉ウインキートス(目黒記念G2・優勝など)のような重厚なスタミナを有する産駒が誕生したことを少し不思議に思っていました。先ほどおっしゃっていた、自身に似ず、種牡馬の良さを産駒を引き出すタイプなのでしょうか。

また、イクスキューズの21は母17歳時の仔ですから、その年齢にして最高傑作と言える仔を誕生させることが凄いと思います。



岡田 一般の確率的に言うと、若い繁殖牝馬の方が走る産駒を出しているのですが、人間でも老化のスピードが速い人と遅い人がいますよね。「いつまでも若々しいよね」って言われるような人は、元々もっている遺伝子にも影響を受けているはずです。同じようなことが繁殖牝馬にも当てはまって、老化スピードが速いお母さんの場合、自分が生きていくだけで精一杯にもかかわらず良い仔を産めと言われても、子どもにエネルギーを与えられないと思うのです。

イクスキューズのように高齢になっても良い仔を出せるかどうかは、最終的には繁殖によりけりだと思います。


── 実は僕も生産の世界に片足を突っ込んで高齢の繁殖牝馬を持っていますので、今の話を聞いて勇気づけられました(笑)。ありがとうございます。




【2】ウインリバティの21(・募集番号 9)

5/20 栗東 宮徹 厩舎予定
エピファネイア (母父 ダンスインザダーク)
4200万円 / 400 (1口 10.5万円)
── 続いて、今年度の最高募集価格となるウインリバティの21です。 …
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第110回 2022年ウインレーシングクラブ推奨1歳馬を見てきました
~お知らせ~
2023年5月、当コラムの書籍続編
馬体は語る2」が発刊されました
著者
治郎丸敬之
新しい競馬の雑誌「ROUNDERS」編集長。週刊Gallopにてコラムを連載中。当コラムの書籍も発刊
馬体の見かた講座
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