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馬体の見かた講座
馬を見る上での考え方から各馬体パーツの基本、種牡馬毎の特徴、専門家へのインタビューも
治郎丸敬之 著 / 連載中

2020春クラシックで活躍したクラブ馬の馬体分析【牡馬編】

活躍馬の募集時馬体を振り返る
前回の牝馬編に続いて、今春のクラシックで活躍したクラブ馬の募集時代を振り返っていきます。今回は牡馬編として計10頭の活躍馬を見ていきます。

1. サリオス

撮影時期推定:1歳7月頃
ウォーキング動画
サリオス シルクホースクラブ
父 ハーツクライ 2017-01-23生
募集価格:7000万円 / 500口 (一口 14万円)
東京優駿(G1) 2着 / 朝日杯FS(G1) 優勝 / 毎日王冠(G2) 優勝 / 安田記念(G1) 3着 / 皐月賞(G1) 2着 / 香港マイル(G1) 3着 / サウジアラビアRC(G3) 優勝 / 大阪杯(G1) 5着 / マイルチャンピオン(G1) 5着 / 2歳新馬 優勝
牡馬編のトップバッターは、春こそ無冠に終わってしまいましたが、皐月賞と日本ダービーで2着したサリオスです。先着を許したコントレイルは、ディープインパクトの最高傑作となる馬ですので、さすがに相手が悪かったとしか言いようがありません。競馬の世界でたらればは禁物ですが、生まれた年が1年ずれていれば、すでにクラシックホースになっていただけの実力馬です。

募集時のカタログ写真を見てみると、まるで今のサリオスの姿かと思ってしまうぐらい、当時から完成度の高い馬体だったことが分かります。筋肉量が豊富で、それを支える馬体全体のフレームも大きく、バランスが良くて、実に立派な立ち姿です。ノーザンファームで育成され、デビューを果たし、クラシック戦線で走るために調教を重ねる中で、絞れるところは絞り込まれ、競走馬らしくなっていったのは確かですが、1歳7月時点でこれだけの完成度の高さを誇っていたのは驚きです。もちろん、1月23日と早生まれであったことも手伝ってはいるでしょうが、それにしても古馬のような風格を漂わせています。ハーツクライの走る産駒らしく、後ろ肢がスッと伸びていますし、細かいことを言うと、管の部分が相対的に短くて健康そうな脚元をしていますね。募集価格が7000万円と高額だったのは、サラキアの弟という血統背景以上に、この素晴らしい馬体ゆえだったはずです。

しかし、サリオスのウォーキング動画を観てみると、誰が観ても緩いと感じるほど緩い歩様をしています。緩さについては、別の機会で詳しく語りたいと思っていますが、サリオスは典型的な緩い馬です。特に歩く姿を後ろから観てみたとき、グニャっと肢が曲がるようにキッチリと着地ができていない面も見られます。サリオスの関係者は、これだけ緩いにもかかわらず早い時期から走っていることに少なからず驚いていましたし、僕たちもそろそろ緩いことの意味を考え直していかなければならないと思います。

個人的には、サリオスは緩かったからこそ、日本ダービーまで走ったのだと考えています。馬体が緩いことのデメリットはたくさん挙げることができますが、唯一のメリットとしては距離が持つということです。たとえば、フジキセキ産駒のイスラボニータが日本ダービーで2着できたのは、若駒の頃はまだ馬体が緩かったからです。古馬になって、緩さが解消されていくにつれ、適性距離は自身の本質のマイル路線に近づいていきました。馬体が緩い、つまりサスペンションが緩いということは、関節部分に遊びがあるということであり、それゆえに可動域が広くなることで距離が持つことにつながるのです。

朝日杯フューチュリティステークスをレースレコードの1分33秒0で勝ったように、サリオスは本質的にはマイルから2000mまでの距離を得意とするパワータイプの馬体です。あれだけ筋肉量の多い馬が2400mをしっかりと走り切れたのは、サリオスの緩さゆえだと僕は考えています。もちろん、筋肉量の多さと馬体の緩さのアンバランスゆえに、レースを1走するごとの肉体的ダメージは大きかったはずで、そこをきっちりとケアできた堀厩舎の手腕も認めないわけにはいきません。募集時の動画を観て、明らかに緩いと思われる馬に出資するのは勇気が要りますが、サリオスに関しては、生まれの早さや肉体の完成度と緩さのバランス、そして厩舎力など、あらゆる要素が全てプラスに働いての活躍であったと思います。


2. ラウダシオン

撮影時期推定:1歳7月頃
ウォーキング動画
ラウダシオン シルクホースクラブ
父 リアルインパクト 2017-02-02生
募集価格:2500万円 / 500口 (一口 5万円)
NHKマイルカップ(G1) 優勝 / 京王杯スプリングC(G2) 優勝 / 富士S(G2) 2着 / クロッカスS(OP) 優勝 / 阪神カップ(G2) 3着 / もみじS(OP) 優勝 / ファルコンS(G3) 2着 / シルクロードS(G3) 3着 / 1351ターフスプ(G3) 4着 / 小倉2歳S(G3) 3着 / 2歳新馬 優勝 / 京王杯スプリングC(G2) 5着
続いて、NHKマイルカップを制したラウダシオンです。NHKマイルカップはミルコ・デムーロ騎手が思い切って先行し、見事にはまった感のあるレースでしたが、ラウダシオンに勝てる力があったからこその芸当でもあります。他の出走メンバーと比べても、馬体の完成度が1、2を争うぐらいに高かったのは確かです。ところが、募集時のカタログ写真を見てみると、至って普通ですね。動画で歩く姿を観ても、良い意味で普通です。前後躯の実の入りとバランスは良いのですが、あくまでも平均よりも少し上というレベルであり、正直に言うと、この馬体がNHKマイル時にあそこまでの完成度に達するのは想像ができません。

その秘密は、種牡馬としてのリアルインパクトが伝える早熟性にあるはずです。リアルインパクト自身は決して早熟な馬ではありませんでしたが、その産駒には母系のメドウレイクの影響が色濃く出るため、スピードとパワー、そして早熟性に長けた馬になるのでしょう。ラウダシオンはその典型的なタイプであり、2歳の春からデビューに向けての時期にグッと成長したのだと思います。


3. ヴェルトライゼンデ

撮影時期推定:1歳5月頃
ヴェルトライゼンデ サンデーサラブレッドクラブ
父 ドリームジャーニー 2017-02-08生
募集価格:3600万円 / 40口 (一口 90万円)
ジャパンカップ(G1) 3着 / 日経新春杯(G2) 優勝 / 東京優駿(G1) 3着 / 鳴尾記念(G3) 優勝 / ホープフルS(G1) 2着 / アメリカJCC(G2) 2着 / スプリングS(G2) 2着 / 神戸新聞杯(G2) 2着 / 萩S(OP) 優勝 / 2歳新馬 優勝
次は日本ダービーを3着したヴェルトライゼンデについて。 …
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第84回 2020春クラシック活躍馬の馬体分析【牡馬編】
~お知らせ~
2023年5月、当コラムの書籍続編
馬体は語る2」が発刊されました
著者
治郎丸敬之
新しい競馬の雑誌「ROUNDERS」編集長。週刊Gallopにてコラムを連載中。当コラムの書籍も発刊
馬体の見かた講座
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