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馬体の見かた講座
馬を見る上での考え方から各馬体パーツの基本、種牡馬毎の特徴、専門家へのインタビューも
治郎丸敬之 著 / 連載中

48.梁川正普氏(ヤナガワ牧場代表)インタビュー【前編】

日々サラブレッドと向き合いながら、馬を見ることを仕事としている競馬関係者の方々へのインタビュー。今回からご登場頂く5人目は、ヤナガワ牧場代表の梁川正普さんです。今回で牧場躍進とYGGオーナーズクラブ(旧ブルーインベスターズ)※への提供開始について、次回では馬体と配合論についてお話を頂きます。
※旧ブルーインベスターズは、2018/4/2より以下の通り名称を変更、リニューアルしています。
愛馬会法人: 株式会社ブルーインベスターズ → 株式会社 YGG オーナーズクラブ
クラブ法人: 株式会社ブルーマネジメント → 株式会社 YGG ホースクラブ


梁川正普(やながわまさひろ)さん プロフィール

有限会社ヤナガワ牧場代表取締役。1967年に祖父(正雄氏)と父(正克氏)が創業したヤナガワ牧場を引き継ぐ3代目。2007年フェブラリーSをサンライズバッカスが勝利したのが初のG1制覇となった。その後、コパノリチャード、コパノリッキー、キタサンブラックなどの名馬を誕生させ続けている。YGGホースクラブ(旧ブルーマネジメント)法人代表の梁川勝広氏とはいとこ同士で、2015年産駒から提供を開始。

活躍馬を輩出する生産者としての思い

― もう言われ慣れていると思いますが、昨年末はキタサンブラックで有馬記念、コパノリッキーで東京大賞典を勝利し、有終の美を飾られましておめでとうございます。おめでとうなんて言葉では言い表せないほど、本当にすごいことですよね。


梁川正普氏(以下、梁川) ありがとうございます。競馬は勝つときも負けるときもありますが、僕は子どもの頃から牧場にいて、大きなレースを勝つことがいかに難しいかを身に染みて知っています。このようなことは生まれてこの方なかったことですし、喜びながらも驚いている、また正直なところ、この先パタッと止まってしまったら寂しいなという想いもあります。

今ちょうど冬季オリンピック(平昌・取材時は2月下旬)が行われていますが、出場している選手たちは自分で血のにじむような練習や努力をしているわけです。キタサンブラックも稽古(調教)を積んで走って勝ってくれています。調教師さんはコーチのようなものでしょうか。それに比べて僕たちは、選手たちにとっての親のような存在であり、陰から見守ったり、応援をしたりすることぐらいしかできません。皆さんがテレビの前で羽生くんの演技が始まるのをドキドキして待つように、どうしても現場からは一歩離れて僕たちは競馬を観ることになります。


― 我が子を見守るような気持ちですね。サラブレッドが母馬から生まれ落ちてくるところからたずさわっているわけですから、1頭1頭に対する生産者ならではの思い入れがあると思います。


梁川 母胎から仔馬を取り出して、はじめて自分の肢で立つ瞬間に立ち会うことができ、そのときに馬体と対面して、いい馬だなとか、少し小さい・大きいなとか、肢が少し曲がっているなどを観察します。この馬は今このような形だけど、この先良くなるな、など誰よりも先に観ますので、それぞれの印象は大体覚えていますよ。

生まれたときは、どの馬もダービー馬に思えて、今年は5頭も6頭もダービー馬がいるなんてこともありますが(笑)、そういう気持ちで仔馬は取り出しますね。そして、僕たちは生産者でもあり、馬に値をつけて売らなければいけませんので、よりシビアな視点でそれぞれの馬を観ることになります。

躍進の秘訣は

― 中小牧場の生産者の方々とお話をすると、自分が生きている間に重賞をひとつでも勝ちたいと思っていると聞くこともあるように、それだけ大きなレースを勝つような活躍馬を出すことは難しいという現実があります。にもかかわらず、こうしてヤナガワ牧場が日高の競馬関係者の夢を体現してくれました。

運が良かったのだとおっしゃるかもしれませんが、そこには間違いなく何かがあるはずです。これまでに取り組んできたこと、大切にしていることなど、その成功の秘訣を少しでも教えていただければ幸いです。たとえば、ヤナガワ牧場の分場である国分農場の広大さや勾配は利いてきているとお考えですか?


夜間放牧を行うのは分場「国分農場」

梁川 本場で放牧をしていたときも、それなりには馬は動いていたと思うのですけどね。分場に行ってからは、たしかに馬の運動量がだいぶ増えました。分場を借りたのは12年ぐらい前であり、その当時、夜間放牧はそれほど盛んに行われていませんでした。それから4、5年目から夜間放牧を始めたのですが、どうしても危険が伴いますからね。夜中に寝ていると、「ヤナガワさんの馬が逃げていますよ」と電話がかかってきて、結局はうちの馬ではなかったのですが、ひやっとしたこともありました。たとえば、雷の音や鹿が跳ねたことに驚いて、馬が暴れて事故につながったこともあったりと、夜間放牧に心配はつきものです。

厩舎にいるよりは、夜間放牧に出すと丈夫になっている気はします。手脚が丈夫という意味と、体質的に強くなって病気も少なくなっている。厩舎の中にいると風邪などの病気がうつったりしますが、外であれば換気が良いですしね。


― 分場はどれぐらいの広さがあるのですか?先ほど拝見させていただいたところ、向こうの牧柵が見えないほどの広大な土地でした。間仕切りの柵を取っ払って、ひとつの大きな放牧地にして多くの馬たちを一斉に放牧されていると聞いています。

間仕切り柵のない広大なスケールの分場

梁川 何ヘクタールというように、はっきりとした広さは分かりませんね。分からないぐらい広いという意味ではないですよ(笑)。20頭から30頭を放しても問題ない広さであることは確かです。間仕切りを取って一面にしたのは、私の父親のアイデアです。少ない頭数であれば集牧が楽ですし安全ですが、多頭数を放牧すると、集牧する際に2、30頭が一斉に集まってきますので、ぶつかって怪我をしたりすることもあります。また、お客さんが馬を見に来てくださったとき、「向こうの方にいます」と指差すと、「そうか、また来るわ」と言って帰ってしまうこともあります。馬も捕まりたくなくて逃げるので、これだけ広いと連れて来ることは困難です。

どれだけ広い土地であっても、放牧中に馬が動かなければ意味がありません。2、30頭もいると、中には群れから抜け出して冒険しようとしたり、先に走り出したりする馬がいて、それについて行こうとすることで群れ自体が良く動くというメリットはあります。人間側が馬を追ったりするのではなく、自分たちの群れの中で半ば強制的に運動させられるという感じでしょうか。

あえて言うとすれば、これは人間の都合でもあるのですが、水飲み場が手前側にあるため、どれだけ放牧地の遠くに行っていたとしても水を飲むためには戻ってこなければならないのです。1日に2、3回は必ず水を飲みに戻ってきますので、そこはひとつの仕組みになっていると思います。

キタサンブラックやコパノリッキーの放牧地における様子を思い出すと、当歳から集団の先頭を切るようなタイプの馬ではなかったと記憶しています。両馬とも、馬同士において強さを表に出す馬ではなかったですね。


― ヤナガワ牧場の生産馬は、1頭、2頭の名馬が現れただけではなく、長く丈夫に走り続ける馬が多いという印象を個人的には持っています。

梁川 ありがとうございます。トレセンや育成場の技術や施設も良くなってきていますし、持ちこたえてくれる馬が増えてきていると思います。牧場にいるときも、当歳のときから夜間放牧をして、できるだけ運動をさせて腱や骨を強くしようと心がけています。サラブレッドが勝手気ままに全力疾走できるのは、仔馬のときの牧場だけですからね。


クラブへの提供開始について

― ところで、昨年からYGGオーナーズクラブ(旧ブルーインベスターズ)に生産馬を提供し始めていますが、その経緯を教えていただいてもよろしいでしょうか? これまで、生産馬をクラブに提供されることはほとんどなかったと思いますが、一口馬主DBを何気なく見ていたら、「あっ、ヤナガワ牧場の馬が、募集されている!」と驚かされました。

梁川 実はYGGホースクラブ(旧ブルーマネジメント)代表が私のいとこなのですよ。もともと彼とはお酒を飲んでは話したりする間柄です。今まで取引はなかったのですが、昨年から話をいただきました。頑張って走ってくれると嬉しいですね。


― ヤナガワ牧場の生産馬というと、もはやブランドになっていますからね。

梁川 全然そのようなことないですよ。迷惑かけなければ良いなと思っています(笑)


― 現在、募集されている2頭の馬体を拝見させていただきました。ゴールドアリュールとエイシンフラッシュの産駒の牝馬2頭ですね。サイモンドルチェの仔はゴールドアリュール産駒らしい立派な馬体をしていますね。

梁川 母サイモンドルチェは勝ち切れなかったのですが、いつ勝ち上がっても不思議ない良い走りをしていました。スピードもあり、馬体も良かったので、繁殖牝馬としていつか良い仔を誕生させてくれるのではと思っていました。ゴールドアリュールの仔はなかなか良い感じで出たと思います。

基本的には、毎年異なった種牡馬をかけて、バラエティに富んだ配合にしています。同じ種牡馬を続けてかけたのは、コパノニキータ(コパノリッキーの母)ぐらいではないでしょうか。コパノリッキーの兄が良い形の馬体に出たので、繁殖牝馬と種牡馬が合っているのだと判断して、翌年も同じ種牡馬をかけたということです。


― メイショウセイカの仔は良血馬ですね。馬体としては、エイシンフラッシュが強く出たのでしょうか、それとも母系が出たのでしょうか。現時点では、どちらとも言えない気がします。

梁川 そうですね、どちらかというとエイシンフラッシュですかね。メイショウセイカは桜花賞を勝ったチアズグレイスにクロフネという配合であり、決してダート向きのごつい馬体ではなく芝向きの馬体でしたので、エイシンフラッシュをつけました。芝でこそ走る馬になるのではないでしょうか。

(次回に続きます)
前後の記事
第48回 梁川正普氏インタビュー【前編】
著者
治郎丸敬之
新しい競馬の雑誌「ROUNDERS」編集長。週刊Gallopにてコラムを連載中。当コラムの書籍も発刊
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