
「背中が良い」とはどういうこと?
競走馬の背中について騎乗者の感覚を聞く
競馬の世界には、あいまいな言葉が溢れています。特に馬体について語るとき、僕たちは驚くほどにあいまいな言葉を使いたがります。あいまいな言葉シリーズ第2弾として、今回は「背中」を取り上げます。
具体的に挙げると、「背中が硬い」または「背中が柔らかい」、「背中が良い」といった、馬の背中の状態を表現するあいまいな言葉です。
騎乗者がサラブレッドの背にまたがった時に抱く感覚的なものであるからこそ、馬に乗ったことさえない一般のファンにはなおさら伝わりにくい。そんな馬の背中にまつわるあいまいな言葉を、まるで馬の背にまたがったような気持ちになれるぐらいまで、噛み砕いて説明できればと思います。
具体的に挙げると、「背中が硬い」または「背中が柔らかい」、「背中が良い」といった、馬の背中の状態を表現するあいまいな言葉です。
騎乗者がサラブレッドの背にまたがった時に抱く感覚的なものであるからこそ、馬に乗ったことさえない一般のファンにはなおさら伝わりにくい。そんな馬の背中にまつわるあいまいな言葉を、まるで馬の背にまたがったような気持ちになれるぐらいまで、噛み砕いて説明できればと思います。
「乗馬」で感じる馬の背中
まずどこから始めるべきか迷いますが、馬に乗るところから話しましょう。
馬に乗るためには、鐙(あぶみ)に片方の足をかけ、馬の背をまたぎ、もう一方の足も鐙に入れます。体高が自分の身長と同じぐらいある馬の背をまたぐためには、台に乗ることもありますし、誰かに手伝ってもらって勢いをつけて乗ることもあります。後者はパドックでジョッキーが馬に乗る場面を見たことがありますよね。馬の背中には鞍(くら)が載っていますので、僕たちはそこに腰掛ける形になります。
この状態で馬が歩いても(常歩)、騎乗者の座位はそれほど動くこともなく、鞍を通して衝撃を受けることもありません。観光地でゆったりと歩く馬に乗った経験のある方なら想像できるはずです。馬の背から受ける衝撃を反動と呼ぶのですが、常歩ではほとんどなかった反動が、速歩、駈歩(キャンター)、さらに襲歩(ギャロップ)と馬の動きが大きくなると、座っているだけではお尻が痛くて仕方なくなってきます。
そこで騎乗者は馬の動くリズムに合わせて、腰を浮かせたり、鞍に座ったりを繰り返すことで、反動を逃がそうと心がけます。上手く反動を逃がせたときは人馬一体の気持ちを味わえるのですが、ひとつ間違うと、馬の背中と自分のお尻が激突します。しかも一度リズムが崩れると、2度、3度とお尻が強打されることになり、あれ結構痛いし恥ずかしいんですよね。人生初の痔になるのではと思ったほどです(笑)。
このとき初めて、馬と呼吸を合わせることの難しさや、馬に乗ることの大変さを思い知るのです。つまり、乗馬をするとき、騎乗者が馬の背中を意識しないことはないといっても過言ではありません。
馬に乗るためには、鐙(あぶみ)に片方の足をかけ、馬の背をまたぎ、もう一方の足も鐙に入れます。体高が自分の身長と同じぐらいある馬の背をまたぐためには、台に乗ることもありますし、誰かに手伝ってもらって勢いをつけて乗ることもあります。後者はパドックでジョッキーが馬に乗る場面を見たことがありますよね。馬の背中には鞍(くら)が載っていますので、僕たちはそこに腰掛ける形になります。

この状態で馬が歩いても(常歩)、騎乗者の座位はそれほど動くこともなく、鞍を通して衝撃を受けることもありません。観光地でゆったりと歩く馬に乗った経験のある方なら想像できるはずです。馬の背から受ける衝撃を反動と呼ぶのですが、常歩ではほとんどなかった反動が、速歩、駈歩(キャンター)、さらに襲歩(ギャロップ)と馬の動きが大きくなると、座っているだけではお尻が痛くて仕方なくなってきます。
そこで騎乗者は馬の動くリズムに合わせて、腰を浮かせたり、鞍に座ったりを繰り返すことで、反動を逃がそうと心がけます。上手く反動を逃がせたときは人馬一体の気持ちを味わえるのですが、ひとつ間違うと、馬の背中と自分のお尻が激突します。しかも一度リズムが崩れると、2度、3度とお尻が強打されることになり、あれ結構痛いし恥ずかしいんですよね。人生初の痔になるのではと思ったほどです(笑)。
このとき初めて、馬と呼吸を合わせることの難しさや、馬に乗ることの大変さを思い知るのです。つまり、乗馬をするとき、騎乗者が馬の背中を意識しないことはないといっても過言ではありません。
「競走馬」の場合は?
一方、競走馬に乗るジョッキーはどうでしょうか?実際のレースにおいて、サラブレッドはおよそ時速60kmのスピードで走るため、ジョッキーは反動を逃がすというよりも、できる限り馬の走りを邪魔しないように、鐙に足を少しだけ乗せ、腰を浮かせた姿勢で騎乗していますよね。いわゆるモンキー乗りというスタイルですが、普通に馬に乗る格好とは全く異なることが分かります。
ここでひとつの疑問が湧いてきませんか?競馬のジョッキーはどのようにして馬の背中の硬さや柔らかさを感じるのでしょうか。それは騎手だけではなく、育成施設の騎乗スタッフや厩舎の調教スタッフも同じです。鐙に足をかけて乗るだけの騎乗スタイルで、どのようにして背中の良し悪しを判断するのでしょうか。
そのような素朴な疑問を、岩手競馬で持ち乗りの厩務員をしながらジョッキーを目指している志村直裕氏にぶつけてみました。彼はオーストラリア各地を飛び回って数々の競走馬に跨り、近年は国内の育成牧場で多くの重賞勝ち馬の育成にたずさわっていました。
育成から実戦までを知り尽くした彼こそは、サラブレッドの背を語るには相応しい人物だと思います。ここから先は、僕たちの生のやり取りをできる限り再現したいと思いますので、インタビュー形式をそのまま残させていただきます。

ここでひとつの疑問が湧いてきませんか?競馬のジョッキーはどのようにして馬の背中の硬さや柔らかさを感じるのでしょうか。それは騎手だけではなく、育成施設の騎乗スタッフや厩舎の調教スタッフも同じです。鐙に足をかけて乗るだけの騎乗スタイルで、どのようにして背中の良し悪しを判断するのでしょうか。
そのような素朴な疑問を、岩手競馬で持ち乗りの厩務員をしながらジョッキーを目指している志村直裕氏にぶつけてみました。彼はオーストラリア各地を飛び回って数々の競走馬に跨り、近年は国内の育成牧場で多くの重賞勝ち馬の育成にたずさわっていました。
育成から実戦までを知り尽くした彼こそは、サラブレッドの背を語るには相応しい人物だと思います。ここから先は、僕たちの生のやり取りをできる限り再現したいと思いますので、インタビュー形式をそのまま残させていただきます。
背中が「硬い」「柔らかい」の感覚
──
サラブレッドの「背中が柔らかい」とか「背中が良い」という表現があります。一口クラブで出資している馬が育成担当者のコメントで、「背中の良い馬です」や「乗り味の良い馬です」と褒められると、具体的にどう良いのかはわからなくても嬉しくなってしまいます。
しかし、そもそも騎乗者は鐙に足を乗せてモンキー乗りをしているのに、どのようにして馬の背中を感じるのでしょうか?足から伝わってくる感覚でしょうか?馬の背の上に座っているなら、お尻を通して背中の硬さや柔らかさなどの感触や反動が伝わってくるのは分かりますが、ジョッキーやライダーはどのようにして馬の背中を把握するのだろうという疑問があります。
志村直裕氏(以下、敬称略) 馬乗りが感じる背中の感覚というのは、経験則に基づいているものが多いと思います。 数百、数千という馬に乗った経験から、またがった瞬間に、ある程度、その馬のタイプを分類できるようになります。
── 感覚的なものだと思いますが、具体的にはなにを感じ取るのでしょうか。
志村 具体的に感じ取れるもので最も分かりやすいのは、「背中の硬さ」や「柔らかさ」です。これはフレーム(関節)の可動域の広い・狭い、筋肉の柔軟性の有無を指します。またがった瞬間に総合的に感じ取ることができるようになります。
── またがってすぐ感じ取れるということは、たとえば常歩のときに、人間の太ももなどを通して伝わってくる感触ですか?
しかし、そもそも騎乗者は鐙に足を乗せてモンキー乗りをしているのに、どのようにして馬の背中を感じるのでしょうか?足から伝わってくる感覚でしょうか?馬の背の上に座っているなら、お尻を通して背中の硬さや柔らかさなどの感触や反動が伝わってくるのは分かりますが、ジョッキーやライダーはどのようにして馬の背中を把握するのだろうという疑問があります。
志村直裕氏(以下、敬称略) 馬乗りが感じる背中の感覚というのは、経験則に基づいているものが多いと思います。 数百、数千という馬に乗った経験から、またがった瞬間に、ある程度、その馬のタイプを分類できるようになります。
── 感覚的なものだと思いますが、具体的にはなにを感じ取るのでしょうか。
志村 具体的に感じ取れるもので最も分かりやすいのは、「背中の硬さ」や「柔らかさ」です。これはフレーム(関節)の可動域の広い・狭い、筋肉の柔軟性の有無を指します。またがった瞬間に総合的に感じ取ることができるようになります。
── またがってすぐ感じ取れるということは、たとえば常歩のときに、人間の太ももなどを通して伝わってくる感触ですか?
志村
人間のお尻からです。 …