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馬体の見かた講座
馬を見る上での考え方から各馬体パーツの基本、種牡馬毎の特徴、専門家へのインタビューも
治郎丸敬之 著 / 連載中

22.基礎編を振り返って

ここまで馬の立ち姿から歩様まで、馬体の見かたについて語ってきました。長きにわたって書いてきたこともあり、このあたりで一旦立ち止まって、1歳馬の馬体の見かたを振り返ってみたいと思います。

何よりも大切なことは、1歳馬の馬体を見るときには美点を見るということです。現役の競走馬の馬体も募集時のそれも、シルエットや各部位は大きく変わるものではありません。その馬の競走馬としての礎や本質は、すでに募集時の馬体に現れているということです。違うのはその見方だけ。現役時代の馬体を見るときには、その馬の馬体の欠点を見て減点法で評価するのに対し、募集時代の馬体を見るときには、美点を見て加点法で評価するということです。

第4回の連載でお話しした、馬を側面からみた四角形を用いて馬体のプロポーションを見るとき、ほとんどの馬は正方形に収まるのですが、たまに横長の長方形(低方形)になることもあります。手脚が短いために低方形になっている馬、または胴部が長いために低方形になっている馬がいます。このような馬は美しいシルエットとは言い難いのですが、前者であれば力強さやパワーに優っている、後者であればスタミナに富んでいると考えることもできるのです。馬体における同じ部分の同じ状態を見ても、プラスに解釈できることもあるということですね。

第16回の連載で解説したように、飛節だけを見ると、曲がりがきつくて、理想的な状態ではなかったとしても、歩いている姿を見てみると、地面を蹴ったときに飛節がしっかりと後ろに真っすぐ伸びて、キック力の強さを感じさせる馬もいます。ある部分においては、欠点(マイナス)があったとしても、他の部分では美点(プラス)もある。美点に注目するとすれば、その馬は良い馬体の馬ということになります。

どこを重視してどこは気にしないか、どの程度までは許容できるかは、それぞれの考え方や経験によって異なってくるはずです。またどのようなタイプの馬を手に入れたいかによっても、評価するべきポイントは大きく変わってきます。ただ、そのようなメリハリをつけた馬体の見かたができるようになるためには、馬体のあらゆるパーツごとの見かたを知った上であった方が、なおさら効果的だと思います。何も知らなければどこが大切かさえ分かりませんし、私たちは知らなければ何も見えないのです。

そして、他馬よりも少し速く走ることのできる馬を他人よりも少し早くみつけるためだけではなく、私たちが馬体の見かたについて知っておくべきもうひとつの理由は、長く走り続けることのできる馬をみつけるためです。私たちは良い馬というと、速くて強い馬を思い浮かべてしまいがちですが、良い馬とは丈夫に走り続けることのできる馬でもあります。一口馬主や馬主を長く続けている方ならよくお分かりでしょう。

ウィンチェスターファームの吉田直哉氏が、「馬を観る」ことについて書いてくださった原稿の結論を私は決して忘れません。

最後に馬を選ぶという仕事を続ける中で忘れられない思い出を紹介します。数年前に香港の顧客から呼ばれて同国のシャティン競馬場へ行きました。私達が輸出に関わった某馬の様子を見てほしいと言うのです。土曜日の厩舎地区は開放されており、馬主とその家族が愛馬を見るために訪れ和やかな雰囲気でした。該当馬の馬房へ行ってみると顧客の小さなお子さん達が馬の顔にキスをしたり、首に抱きついたりしていましたが馬の方は平然としていました。私達が選んだ馬がそうして可愛がられている様子を見て、思わず目頭が熱くなり、妻と二人で「怪我をしない、健康な馬を選ぼう」と話し合ったものです。健康で丈夫な馬はより強い調教に耐え、上のクラスを目指したり、長く競走生活を続けることが出来ると思います。それも馬を観る上で大切なことだと考え仕事に臨んでいます。

「ROUNDERS」vol.4「馬を観る 当歳から1歳馬までのサラブレッド種の評価方法」



これで馬体の見かたの基礎編を締めくくらせていただきたいと思います。最初はどうなることやら、着地点も分からないまま連載をスタートしましたが、書き進めてゆくにつれ、Web上にある馬体の見かたのテキストとしては、最長かつ最上のものになると確信するようになりました。自画自賛にはなりますが、サラブレッドの馬体について、基礎からここまで体系的にまとまったものはなかったと思います。かつできるだけ分かりやすく語ってきたつもりです。読んでくださった皆さまの馬体の見かたが、より深く、より広がってくれたなら幸いです。

次回以降は応用編に入りたいと思いますので、ぜひ楽しみにしていてください。

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第22回 基礎編を振り返って
著者
治郎丸敬之
新しい競馬の雑誌「ROUNDERS」編集長。週刊Gallopにてコラムを連載中。当コラムの書籍も発刊
馬体の見かた講座
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