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馬体の見かた講座
馬を見る上での考え方から各馬体パーツの基本、種牡馬毎の特徴、専門家へのインタビューも
治郎丸敬之 著 / 連載中

三冠牝馬デアリングタクトの全妹に会ってきました

TCライオン 募集馬インタビュー2020
デアリングタクトが秋華賞を勝ち、3冠牝馬に輝いた余韻のまだ残る中、僕はうらかわ優駿ビレッジAERUに宿泊し、翌日、目と鼻の先にあるシュウジデイファームを訪れました。もちろん、デアリングタクトの全妹(デアリングバードの19)に会うためです。3冠牝馬の全妹に出資できるチャンスがあると聞き、心躍らない一口馬主は少ないでしょうし、誰もが実際にこの目で見てみたいと思うはず。とはいえ、このご時世ゆえ、今までのように気軽に牧場見学することも難しいのは承知の上、皆さまの代わりに行って参りましたので、ここに報告させていただきます。

先月の南部杯(Jpn1)で育成馬ワンツーを決めるなど
好調のシュウジデイファームにうかがいました
厩舎も増設されており活況を感じます


話は7月13日(月)に行われたセレクトセール(1日目)にて、93番目に上場されたデアリングバードの19が落札された時のことまでさかのぼります。当時、ネット中継でセリを観ていた僕は、思わずアッと声を上げてしまいました。

理由は2つあって、ひとつは予想以上に落札額が低かったから。その時点で桜花賞とオークスを制し、3冠もほぼ確実と考えられていたデアリングタクトの全妹であり、今年のセレクトセールの目玉の1頭でもあったデアリングバードの19がなんと4900万円(税込5390万円)、しかもひと声で落ちてしまったのです。競走馬の購買価格が高騰する中、どこまで吊り上がるのだろうとドキドキしながら眺めていたのですから意外でした。

もうひとつは、落札者がサラブレッドクラブライオン(以下、TCライオン)であったから。それは僕たち一口馬主にも出資できるチャンスがあるということを意味します。この日以来、デアリングバードの19は他人事ではなく自分事の馬になったのでした。

TCライオンによると、セレクトセールで落札したのち、すぐに会場内にいた杉山晴紀調教師に預託を依頼したところ、ひとつ返事で快諾いただき、また育成は自然と名門・シュウジデイファームに決まったそうです。どんな高額馬・良血馬だろうと、同じように手掛けるだけと、シュウジデイファームの石川秀守代表には以前この連載のインタビューでも語っていただきました。


さて、デアリングバードの19を検討中、あるいはすでに出資されている方であればご存じかと思いますが、11月中旬現在、実はまだ本格的な育成には入っていません。今回、石川代表には特に現在の状態について詳しく聞いてみました。また、シュウジデイファームに在厩しているTCライオンのその他の募集馬も見せていただきましたので、その模様もあわせてお届けしたいと思います。


デアリングバードの19(・募集番号4)

(カタログ写真)
栗東 杉山晴紀 厩舎予定 5/16
エピファネイア (母父 キングカメハメハ)
6200万円 / 1000 (1口 6.2万円)
― デアリングバードの19がシュウジデイファームに来たとき、もちろん3冠牝馬デアリングタクトの全妹ということで期待やプレッシャーも少なからずあったと思いますが、やはりクラブのレポートにも記されているように、両前脚の腫れが最も気になったことでしょうか。


シュウジデイファーム代表 石川秀守氏(以下、石川) そうですね、こちらに入厩した時点ですでに両前肢の裏側が腫れていました。特に右前肢が目立って腫れていて、左前肢はそれに伴って少しモワっとしている感じでした。すぐにエコー検査をしたところ、腱の損傷はなかったので安心しましたが、腱自体が太くなってしまっていました。生産牧場にいるときは脚元に問題はなかったと聞いていますので、セレクトセールに出すために乗り運動をして体をつくっていた時期に、原因は分かりませんが、脚元に負担がかかってしまったようです。

TCライオンさんと相談させてもらい、ここはまず一旦休ませて、経過を見て、良化してくれば運動を再開することに決めました。幸いなことに、先週2か月ぶりにエコー検査をしてみたところ、左前肢の方は触わらなければ分からない程度の腫れ(エコー検査では腱は普通の太さ)まで回復し、右前肢の方はまだ腱が太い状態ですが、こちらに来た当初に比べると半分ぐらいの太さにはなっています。休ませたことで経過が良好になってきていますので、もう少し、年内までぐらいは休養させてあげたいと考えています。デビューは遅れてしまったとしても、今は回復に専念する方が、長い目で見ればお釣りが戻ってくるのではないでしょうか。


― なるほど、セールの際にその状態でなければ、もっと高額になっていた可能性が高かったかもしれませんね。休ませても回復しないのであればそのまま乗っていくしかありませんが、休ませて良化しているのであれば、今は無理をして動かすことはないですよね。エコー検査を見て、腱が太いというのは、炎症を起こして腫れているという意味ですか?


石川 そういうことですね。ただ、今のところ、触っても痛みはありませんので、腫れの原因は明らかではありません。普通に競馬を使っている馬であっても腱が太い馬はいますから、いざ走って我慢ができるかどうかが重要ですね。損傷をしてしまうと良くありませんが、デアリングバードの19の場合はエコー検査で見る限り損傷はしておらず、腱が太いということです。素材は一級品なので、あとは時間をかけて良い方向に持っていければと考えています。


― 大事には至っていないし、快方に向かっているということですね。今年の牡馬3冠を制したコントレイルも、1歳の暮れに球節炎を発症したことで、半年ほど騎乗訓練を休んでいた時期があるそうです。まさに同じ時期ですし、僕はあそこで休んでいたことが、コントレイルの3冠や将来にとって結果的にはプラスに働いたのではないかとさえ思っています。今はどの馬もできるだけ早い時期のデビューを目指して早くから育成を開始する時代ですが、その流れに乗れなかったことがかえって吉と出る馬も中にはいるはずです。


石川 その通りだと思います。 …
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第88回 三冠牝馬デアリングタクトの全妹に会ってきました
著者
治郎丸敬之
新しい競馬の雑誌「ROUNDERS」編集長。週刊Gallopにてコラムを連載中。当コラムの書籍も発刊
馬体の見かた講座
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