2024-09-16現在データ
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馬体の見かた講座
馬を見る上での考え方から各馬体パーツの基本、種牡馬毎の特徴、専門家へのインタビューも
治郎丸敬之 著 / 連載中

45.秋田博章氏インタビュー【前編】

日々サラブレッドと向き合いながら、馬を見ることを仕事としている競馬関係者の方々へのインタビュー。今回からご登場頂く4人目は、ノーザンファームの元場長であり、現在キャロットクラブの取締役の秋田博章さんです。

前回までの下村獣医師編はまだ続きますが、かなりの長編となってまいりましたので、後日あらためて再開させて頂きます。楽しみにお待ちください。

秋田博章さんプロフィール

1948年生。1980年代に旧社台ファームに入り、吉田善哉氏に師事。1993年にノーザンファームの場長に就任し、エアグルーヴやディープインパクト、キングカメハメハ、ジェンティルドンナなど、星の数ほどの名馬の生産から育成に携ってきた。2013年に同顧問。現在はキャロットクラブの取締役を務めている。

馬の見かたに絶対的なものはない

―秋田さんなくして今のノーザンファームの隆盛はなかったはずです。これまで秋田さんがあらゆる媒体にて語ってこられた競馬に対する考え方や見識を私は読んできましたので、こうして改めてお話を伺えるということで、今日は少し緊張しています。歴代の名馬たちをその目で見て育ててきた経験をもとに、馬の見かたについて教えてもらえませんか。


秋田博章氏(以下、秋田) 私も緊張していますよ(笑)。私は獣医が本業ということもあり、馬の能力と欠点とは違うと思っています。たとえ身体のどこかに悪い箇所があったとしても、克服して走ってしまう馬もいます。セリ市に行くと、馬を見ることに関してプロフェッショナルな人たちが集まっているわけですが、彼らの目をかいくぐるようにして、たとえば最近の日本ではモーリスとか、世界的にはサンデーサイレンスなどが、評価を覆して実際にはあれだけ走ったりします。馬の見かたに絶対的なものはないのです。


肢勢ひとつを取ってみても、種牡馬の中にもいろいろな肢勢の馬がいます。種牡馬というのは、ほとんどの場合において実戦で走った(良い成績を残した)馬ばかりですが、彼らの中にも、たとえば飛節が極端に折れていたり、見てすぐ分かるぐらいのオフセット(※)であったりと、明らかに欠点と思えるような肢勢をしている馬はたくさんいます。私はオフセットの馬でも気にせずに買いますが、オフセットの馬は欠陥として昔から避けられてきました。せっかく能力があるにもかかわらず、オフセットであるばかりに評価されず売れないというケースはごまんとあったのです。
※肢勢やオフセット等の用語は本連載第17回第18回で解説しています

先ほど申し上げたサンデーサイレンスは、飛節が深く折れすぎていて、日本に連れて来られた当初は、その点をずいぶんと悪く言われたものでした。またトニービンは管が極端に細く、飛節を横に振ったり、スペイン常歩(なみあし)のような歩き方をするので、多くの馬を見られると言われていた人たちからは批判的な目で見られていました。

対して、同じような時期に種牡馬として入ってきたパドスールやジャッジアンジェルーチ、ノーリュートなどは、文句なしの馬体だと言われていました。その後の種牡馬としての活躍を考えると、まったく逆の結果が出ているのですから不思議です。どこまで欠点を許容できるかどうかは難しく、私は馬喰ではありませんし、肢勢についてモノを言うのは非常に危険だなと思います。

肢勢よりも重視すべき点

― 以前、二ノ宮敬宇調教師に話を聞いた際も、アメリカには考えられないぐらい肢勢の悪い馬がゴロゴロいたと語ってくれました。向こうの人たちは肢勢をほとんど気にしませんよね。日本の競馬関係者が気にしすぎているのかもしれません。


秋田 私がよりどころにしているのは、そのような肢勢が良く映らない馬であっても、歩かせたときの動きが非常にスムーズで柔らかいかという点です。 …
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第45回 秋田博章氏インタビュー【前編】
著者
治郎丸敬之
新しい競馬の雑誌「ROUNDERS」編集長。週刊Gallopにてコラムを連載中。当コラムの書籍も発刊
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