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馬体の見かた講座
馬を見る上での考え方から各馬体パーツの基本、種牡馬毎の特徴、専門家へのインタビューも
治郎丸敬之 著 / 連載中

ノーザンファーム空港でTCライオン募集馬を見てきました

2019年秋ノーザンファーム空港見学記
「今からでも出資できるノーザンファーム生産馬がいる」と聞き、ノーザンファーム空港に行ってきました。

2018年産のノーザンファーム生産馬は、どこのクラブをのぞいてみても満口状態であり、出資したくてもできないのが現状です。私もわずか2頭に出資することが叶いましたが、心のどこかで不完全燃焼の叫びが聞こえていたところでした。同じような気持ちを抱えて悶々としている一口ファンもいるかと思い、北海道に飛びました。そこには決して売れ残りではなく、国内セリの最高峰セレクトセールに上場・落札され、募集開始されたばかりのピカピカのノーザンファーム生産馬6頭が私を待っていたのでした。


抜けるような秋空の中、NF空港各厩舎にお邪魔しました
お忙しい中ありがとうございました



以前ノーザンファームに来たときに、施設の概要を詳しく説明してもらいました。直線距離が800mある坂路と1周1000mの周回コースの全天候型施設を主にして、ノーザンファームの馬たちは育てられます。個人的には全てのコースに屋根が付いていることよりも、坂路コースと周回コースの2つを使って馬をつくることができるのがノーザンファームの強みだと思っています。

周回コースで馬の身体をゆっくりとならし、走る身体ができ上がってきたら、坂路コースで長めを乗ったりスピードを上げたりして負荷をかけていく。坂路コースよりも周回コースを乗る方が乗り手の技術が求められるため、これら2つのコースをきっちりと活用していくためには馬に乗れる人材が揃っていることも鍵となります。環境と人材ががっちりとかみ合い、そして素質馬たちが集まることで、強い馬づくりのノウハウが蓄積されていく。そんな好循環を生み出しているのが今のノーザンファームなのです。
今回同行頂いたのは、サラブレッドクラブライオン競走馬担当の方。昨年から新体制で臨む同クラブは、今年のセレクトセールにおける「爆買い」で一躍注目を集めましたが、購入したノーザンファーム生産募集馬を全頭見せてほしい、という無理なお願いを快く聞き入れてくださいました。なお、今後もノーザンファーム生産馬購入は継続していきたいとのことで、今後の動向、成績に注目したいクラブの一つです。

ノーザンファーム空港事務局の方にご案内頂き、1頭ずつ育成厩舎を訪ねて見学させて頂きました。取材は10月後半でどの馬も既に馴致を終え、乗り込みを開始していますので、各育成担当の方にもお話を聞くことができました。なお、各馬の掲載順は当日の行程順であり、募集番号や推奨の順位を示すわけではありません。

【1】ジンジャーパンチの18(牡・募集番号1)

父 キングカメハメハ 栗東・矢作厩舎予定 3/4生
3億3,000万円(5000口)1口/66,000円
A-1と掲げられた厩舎の前で待っていると、ジンジャーパンチの18(父キングカメハメハ)が登場しました。秋の強い日差しに照らされて、栗毛の馬体が光り輝いています。大げさではなく、馬体から反射してくる光がまぶしすぎて、なかなか直視できないほど。それだけ皮膚に張りがあり、毛艶も冴えているということです。目を細めながら馬体を見ると、募集馬カタログの立ち写真で見たとおり、前駆にも後躯にもしっかりと実が入り、全身にも豊富な筋肉をまとい、全体のバランスが極めて優れています。現時点ですでに強い調教を課せそうなほど、完成度が高い馬体です。

育成担当者にジンジャーパンチの18について尋ねてみると、「普段は大人しくて優等生ですが、乗り出すとチャカチャカするところはありますね。最初は前肢があまり前に出ず、硬いところがあって、ダート馬かなと思ったこともありましたが、最近は上手く身体を使えるようになってきて、走りに柔らかさが出てきましたね。前と後ろの連動性が出てきて、乗っていてガタガタしなくなりました。値段も値段ですので、当然芝のレースからの使い出しになるはずです。今、馬体重が470kgぐらいありますので、デビューするときには500kg前後になるかなと思います。」

担当者の方と僕が話しているとき、終始、手綱を持つ手を甘噛みしようとする仕草を見せていたように、1歳馬の男の子らしい子供っぽさも残っていて、僕は安心しました。血統的には母がアメリカの古馬牝馬チャンピオン(G1レース6勝)、姉にルージュバックがいて、兄のポタジェは新馬戦を快勝し、馬体的にも非の打ちどころがない超エリートですが、可愛いところもあるのです。

セレクトセール当日のエピソードも聞きました。ジンジャーパンチの18は、矢作芳人調教師が「この馬は全てにおいて素晴らしいですよ」とピックアップしてくれた馬であり、億超えすることは明らかだったのですが、さる大物馬主と競り合った結果、2億円の大台に乗ってしまったそうです。その時点で矢作調教師はクラブにあきらめることを進言したところ、「ここまで来たら行くところまで行きましょう」というクラブオーナーの強い意志があって2億9000万円で落札に至ったとのこと。

あのときのセリで落札できなかった馬が種牡馬になったなんていう話はよくあることで、ジンジャーパンチの18に関してはオーナーがあきらめなかったからこそ、サラブレッドクラブライオンの会員さんが出資できるチャンスが生まれたということですね。通常は400口で募集しているクラブですが、今年度に募集する億越えの2頭に関しては、多くの会員さんに楽しんでもらいたいという想いも込め、5000口募集としたとのことです。

どの角度から見ても張りのあるさすがの好馬体
気性もどっしりしており超良血馬らしい一頭




【2】メジロルルドの18(牝・募集番号3)

父 ロードカナロア 栗東・矢作厩舎予定 2/23生
6,000万円(1000口)1口/60,000円
次に案内してくれたのは、メジロルルドの18(父ロードカナロア)がいる厩舎です。 …
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第73回 ノーザンファーム空港でTCライオン募集馬を見てきました
著者
治郎丸敬之
新しい競馬の雑誌「ROUNDERS」編集長。週刊Gallopにてコラムを連載中。当コラムの書籍も発刊
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