2021-06-12現在データ
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馬体の見かた講座
馬を見る上での考え方から各馬体パーツの基本、種牡馬毎の特徴、専門家へのインタビューも
治郎丸敬之 著 / 連載中

41.下村獣医師に聞く【第1回】 [OCDと骨瘤]

下村優樹獣医師(社台F)インタビュー
日々サラブレッドと向き合いながら、馬を見ることを仕事としている競馬関係者の方々へのインタビュー。3人目は日高軽種馬農業協同組合を経て、現在は社台ファームで獣医師として活躍する下村優樹さんです。数々の臨床を通して培った経験をもとに、育成期から競走期に発生する疾患について、また怪我をしない馬、健康な馬の馬体の見分け方をテーマとして教えてもらいたいと思います。

下村優樹さんプロフィール

・2011年に酪農学園大学獣医学部獣医学科卒業
・卒業後は1年3ヶ月、ドイツ・ハノーファー大学付属大動物クリニックで臨床研修
・2013年に1年間、アメリカ・ケンタッキー州の開業獣医師の助手として臨床研修する傍ら、サラブレッド生産牧場に住み込み、飼養管理について学ぶ
・2014年から3年弱、日高軽種馬農業協同組合にて勤務
・2016年11月に社台ファームに入社し、現在に至る

―下村さんは現在、日高の社台ファームにて獣医師として勤務されています。その前は、日高軽種馬農業協同組合でも数多くの臨床経験を積まれており、サラブレッドの一生を点と線として看られてきました。そして何よりも、ここが重要なのですが、大の競馬ファンでもあって、最近はご自身でも一口馬主として出資し始めたと聞きました。国内外のセリに行っていたり、募集馬見学ツアーにも参加したりとご多忙なところ恐縮ですが、獣医師として、また一口馬主としての両方の視点から馬のみかたを教えてください。

下村優樹獣医師(以下、下村) はい、私は獣医師としてサラブレッドの診察をするかたわら、怪我をしない馬や健康な馬を見分けるポイントについて、日頃から思索しています。それは社台ファームの獣医師としての役割のひとつであり、また自分で競走馬に出資してみるにあたっての重要な視点にもなり、さらにこうして発信することで、日本の競馬を盛り上げてくださっている人々のお役に少しでも立てればと考えています。
―怪我をしない馬や健康な馬を見分けるポイントについてお話しいただく前に、まずは育成期から競走期において発生する馬の疾患について教えてください。
というのも、かつては馬券を買って楽しんでいたコアな競馬ファンが、今は一口馬主として馬を選び、出資することでも競馬を楽しむ時代になりました。馬券だけを買っていた時代には、馬の疾患はそれほど身近なものではありませんでしたが、いざ一口馬主になってみると、愛馬が何らかの疾患で十分に走ることができなくなってしまったとき、その疾患は何が原因で起こるのか、治療方法は適切なのか、回復までにどれぐらいの時間がかかるのか、それは競走成績に影響を与えるものなのか等々、私たちは自分ごととして馬の疾患について知る必要性を痛切に感じるのです。


下村 そうですね。一般の競馬ファンにとって、馬の疾患は、病名こそ聞いたことがあれ、症状や治療法などは詳しくは知られていないのではないでしょうか。分かっているようで分かっていない。難しすぎて分からない、というのが正直なところかもしれません。せっかくこうしてお話しできる機会ですので、一口馬主の方々が最も遭遇しやすい、育成期から競走期において発生する疾患について、できるだけ分かりやすく説明したいと思います。

OCD(離断性骨軟骨症)とは?

―よろしくお願いします。まずは一口馬主DBの会員の方々からも質問があった、OCD(離断性骨軟骨症)について教えてください。育成期に発見されやすい疾患のひとつですね。

下村 OCD(離断性骨軟骨症)は、肉体の成長が速いサラブレッドには珍しくない疾患であり、発育していく過程で、軟骨の骨化が阻害されることによって発生します。もう少し分かりやすく言うと、骨というのは、軟骨から骨化が起こって骨になりますが、関節の激しい動きをともなう軟骨同士の摩擦部位に生じます。レントゲン写真で見ると、微小な破片のような骨が浮いているように見せます。実際に軟骨はレントゲンに写らないためこのように見えます。これが OCDであり、球節関節、膝関節、肩関節にも起こりますが、代表的な場所としては、後肢の飛節部分に起こります。

OCDは所見があったとしても、関節が腫れたりする症状が出ない馬もいて、気づかずに現役生活を終える馬もいます。今ですと、クラブによってはレントゲン写真を撮って募集をする時点で分かっていることもありますし、セールでは、販売者(牧場側)が任意でレポジトリー(レントゲン写真)を公表することが増えてきています。一旦馬を休ませて安静にさせると症状が引く馬もいますが、また運動を開始したり少し負荷が掛かると再発する馬もいるので、外科的に離断骨軟骨片を摘出し、軟骨下骨の搔爬術(表面の軟組織をかきとること)を施す場合もありますね。



―OCDは育成期に発見されやすい疾患のひとつであり、ちょうど募集時期に手術を行う馬も少なくないと聞いています。

下村 早いものであれば、当歳馬にも症状が出ることがありますが、乗り運動を始めたときに症状が出てくることがあり、そうなると一旦調教を中止して、運動制限をしなければいけなくなります。せっかく順調に来ていたのに、デビューが何ヶ月も遅れてしまうことになってしまうのです。特に一口馬主のように、1頭の馬に対してお客さまが何十人から何百人もいるケースでは、少しでも早くデビューしてもらいたいという要望にも応えていかなければいけません。牧場にいるときならまだしも、乗り運動を始めてから症状が出てしまうと申し訳ないですからね。そうした事態を避けるために、OCDの所見があれば、早い段階で外科的な処置をしておくケースが増えてきています。


―OCDが重症化して予後不良ということはあまり聞きませんね。名前だけ聞くと、ずいぶん重い疾患のような気がしますが。

下村 離断骨軟骨片を削り取って除去する手術と聞けば、一般の競馬ファンにしてみれば大がかりに思えますが、予後は決して悪くありません。早い段階で発見をして処置をすれば、競走能力には問題がありません。OCDは珍しくない疾患ですし、発見されたからといって悲観的にならなくて良いと思いますよ。

骨瘤とは?

―次に私ごとで恐縮ですが、出資している今年デビュー予定の2歳馬が骨瘤で悩まされています。順調に調整されて、デビュー間近まで行ったのですが、あと少しのところで骨瘤が左前肢に出てしまい、腫れが引くまで安静にせざるを得ませんでした。骨瘤について詳しく教えてください。


下村 骨瘤はよほど重傷でない限りは、自然療法というか、外科的な処置はしません。 …
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著者
治郎丸敬之
新しい競馬の雑誌「ROUNDERS」編集長。週刊Gallopにてコラムを連載中。競馬ブログ「ガラスの競馬場」を主宰。当コラムの書籍も発売中
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