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馬体の見かた講座
馬を見る上での考え方から各馬体パーツの基本、種牡馬毎の特徴、専門家へのインタビューも
治郎丸敬之 著 / 連載中

62.【種牡馬別】キンシャサノキセキ産駒の見かた

種牡馬別の馬体の見かたとして、今回はキンシャサノキセキを取り上げてみたいと思います。

キンシャサノキセキは2011年に高松宮記念を連覇し、そのまま社台スタリオンステーションで種牡馬入りしたというエリートコースを歩みました。種牡馬としても堅実に活躍馬を出し、シュウジやモンドキャンノ、カシアスなどの大物も誕生させてきました。

ここ数年は目立った活躍馬こそ出現していませんが、種付け頭数は2018年度も128頭と安定しており、生産者からは一定の評価を受けて人気を保っています。種付け料は200万円(2019年度)とリーゾナブルであり、出資しやすくて、早期から堅実に走る馬を手に入れたいと考える一口馬主ファンにはお勧めの種牡馬です。

「珍しい」スプリンターだったキンシャサノキセキ

産駒の馬体に言及する前に、キンシャサノキセキ自身の特徴について触れておきたいと思います。というのも、キンシャサノキセキは、非常に珍しいタイプのスプリンターだったからです。スプリンターは競走馬として完成するのが早く、ピークが短いのが一般的です。ここで言うピークとは、絶好調である期間のこと。ピークが長いステイヤーに比べて、スプリンターはピークが圧倒的に短いのです。ステイヤーを線香花火だとすると、スプリンターは打ち上げ花火のように、華やかに咲いては散っていきます。

その理由はスプリンターの精神面にあります。あらん限りの力を感情と共に爆発させることによって速く走ることができるため、短距離馬は燃えやすい気性を有している馬が多いのです。短距離馬の気性面での燃えやすさは、調教からレースに至るまで、その競走生活を貫いています。普段の生活でもちょっとしたことに敏感に反応してしまうし、持ったままの馬なり調教でも好時計が出てしまうため、精神的にも肉体的にも消耗が激しく、競走馬としてのピークが短いのです。

スプリンターにとって絶好調の期間を2シーズン保つことはなかなか難しく、まして1年以上となるとさらに難しいです。しかし、キンシャサノキセキだけは例外中の例外、稀有な存在でした。2005年にデビューしたキンシャサノキセキは、5戦目にしてNHKマイルCに出走し、僅差の3着に好走するや、それ以降、5年以上にもわたってトップレベルのスプリント競走を走り続けたことになります。その間、何度か調子を崩したり、精神的に参ってしまったりしたこともありましたが、その度に立ち直りました。

2009年のスワンSから10年の高松宮記念までの4連勝には、誰もが目を見張りました。堀宣行調教師の息長く馬を走らせる手腕に脱帽しつつも、キンシャサノキセキの生命力の高さにも驚かされました。これだけ長く、闘争心を維持できるスプリンターも珍しいのです。その軌跡だけを見ると、キンシャサノキセキは晩成のスプリンターであるように思えてしまいます。なんと8歳まで走り続け、しかもラストランの高松宮記念を連覇して花道を飾ったのですから。

早熟性と晩成性

キンシャサノキセキが長く走り続けることができた最大の理由としては、南半球生まれ(オーストラリア産馬)であったことが挙げられます。キンシャサノキセキの誕生日は9月24日。日本で誕生した同世代の馬たちと比べて、およそ半年遅れで競走馬としてのスタートを切りました。いわゆる遅生まれということです。

書籍「天才!成功する人々の法則」(マルコム・グラッドウェル著)の中に、この早生まれ、遅生まれについての記述があります。カナダのアイスホッケーの強豪チームの年鑑を何気なく見ていた著者は、ある共通点に気づきました。それは選抜選手たちの誕生日が1月~3月に集中していること。カナダでは1月~12月という学年の区切り方をしているので、1月~3月に早く生まれた子どもたちはその分、成長が早く、身体も大きくなり、身体能力も高くなり、競争に有利になります。そういった状況で選抜が進むことで、早く生まれた子どもたちはより優遇された環境やレベルの高い競争の中で訓練され、さらに高みを目指していけるのです。一方、遅生まれの子どもたちは早々に競争から脱落し、そこから這い上がってゆくのは困難、という分かりやすい図式です。

競馬の世界にも同じことが当てはまります。もし同じ能力を持って生まれたとしたら、早く生まれた方が圧倒的に有利ということです。それだけ早くから馴致や育成に入れますし、その分、成長も早く、早くからデビューすることができ、勝って賞金を稼いでおくことで、その後のローテーションを無理することなく、馬の成長を促しながら調整を進めることもできます。だからこそ、早生まれの馬はクラシック戦線に乗りやすく、遅生まれの馬は若駒の頃はよほど能力が高くないと厳しい戦いを強いられるのです。それをよく分かっているからこそ、生産界では良血であるほど早く種付けをし、できるだけ早く生ませようとする流れがあります。

逆説的ですが、キンシャサノキセキはあきらめざるをえないほど遅生まれであったことで、その早熟性を引き出されずに済んだのでした。陣営も無理をしてクラシック戦線に乗せようとせず、馬の成長に合わせてローテーションを組むことができました。もしキンシャサノキセキが南半球生まれでなかったら、2歳時から調教では厳しい負荷が掛けられて、レースでは激しい叩き合いを強いられ、若駒の頃に燃え尽きてしまっていたことでしょう。

運よく同世代の競争に巻き込まれなかったことで、晩年になって完成されたキンシャサノキセキではありますが、もちろん血統的にも本質的にも早熟のスプリンターであることは間違いありません。その資質は産駒にも遺伝するはずであり、つまり2歳戦から短い距離で活躍するスピード馬が誕生するということです。ここを誤解してはいけないのですが、キンシャサノキセキのように晩成のスプリンターは期待できませんから、2歳戦から動けて、また他の種牡馬の産駒がのんびり成長を待っている時期から活躍でき、賞金を稼いでくるような馬を見つけなければならないということですね。

キンシャサノキセキ産駒の走る馬体

キンシャサノキセキの走る産駒を見極めるポイントのひとつめは、馬体の完成度です。 …
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第62回 【種牡馬別】キンシャサノキセキ産駒編
著者
治郎丸敬之
新しい競馬の雑誌「ROUNDERS」編集長。週刊Gallopにてコラムを連載中。当コラムの書籍も発刊
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