39.【応用理論】より実践的な馬体の見かたへ(応用理論序論)
種牡馬別の馬体の見かたやインタビューと並行して、馬体の見かたの応用理論を語ります。ここまでの話が実践的でなかったということではなく、これまでの馬体の見かたの知識が基礎となって、ようやく応用理論に進めるということです。もしかすると、この先、僕があまりに馬体のパーツ(部分)を見ることを否定するため、馬体の見かたの基礎編は意味がなかったと誤解されてしまうかもしれませんが、決してそうではありません。パーツ(部分)の見かたが分かっているからこそ、馬体の全体像がより直感的に認識できるのです。
もうひとつお断りしておきますと、応用理論でお伝えする方法は、「ROUNDERS」vol.4で書いたものをベースにしています。一度読んだことがあるという方でも、一口馬主のための、出資馬選びにおける馬体の見方についても書き加えていきますのでぜひ読んでみてください。
それでは本題に入りたいと思います。
もうひとつお断りしておきますと、応用理論でお伝えする方法は、「ROUNDERS」vol.4で書いたものをベースにしています。一度読んだことがあるという方でも、一口馬主のための、出資馬選びにおける馬体の見方についても書き加えていきますのでぜひ読んでみてください。
それでは本題に入りたいと思います。
アメリカへの「競馬留学」
もし馬を見る天才がいるとしたら、どのような馬体の見かたをするでしょうか?
このような問いを立て、馬体の見かたについて考えてみることにしたのも、実はあるひとりの男の存在があったからです。僕が彼と出会ったのは、アメリカの競馬場でした。僕は競馬歴が6年目となる時期に、競馬留学と称しておよそ1年間、アメリカのサンフランシスコに渡るという幸運を得ました。サンフランシスコでの生活に慣れるや、僕はベイメドウズという競馬場に通い始めました。当時はシガーという馬が圧倒的な強さで大レースを勝ち続け、アメリカ競馬の話題の中心となっていました。
最初はアメリカ競馬の何から何までが新鮮で楽しかったのを覚えています。アメリカの競馬ファンは、レースがスタートするとすぐに盛り上がり始めます。「Go、Go!」と道中ずっと声援を送るのです。直線になってようやく声が出始める日本とは大違い。これはアメリカと日本のレースの質の違いを表しているのです。スタートしてから息をつく暇もなくガンガン飛ばしていくアメリカ競馬と、道中は折り合いを付けることに専念して、直線でヨーイドンになりやすい日本競馬の違いです。
楽しくて仕方なかったアメリカ競馬ですが、馬券の方はひどい有り様でした。ただでさえ日本に比べると情報が少ない中で、英語の専門用語で書かれた競馬新聞を読んでみても、さっぱり分かりません。前走の着順ぐらいしか、予想するための材料はないように思えました。必然的に少しでも多くの判断材料を求め、馬の馬体を見てみようと、僕の足はパドックへと向かいました。
しかし、ベイメドウズ競馬場のパドックは、僕が考えていたパドックとは違いました。パドックが馬の装鞍所と一緒になっているらしく、次走に出走するにもかかわらず、まだ鞍さえ付けていない馬もいます。出走時間が近づいてくると、おもむろに厩務員らしき人が馬を引き始めたと思いきや、1、2周しただけで、あっという間に本馬場へ向けて僕たちの前から去って行ってしまうのです。馬券を買っている競馬ファンに馬を見せようという意識などひとかけらもありません。各馬の馬体の細かいところを見ている時間などないのです。だからでしょうか、パドックを熱心に見ようという馬券おやじの姿もチラホラとしか見かけませんでした。大勢の人々に囲まれたパドックを、サラブレッドが10分以上にわたって延々と歩かされる日本とは大きな違いですね。良く言えば、馬優先主義ということなのでしょう。
これではパドックも予想の材料にはならないな、とあきらめかけていた矢先、ひょんなことがきっかけで僕はビリーと呼ばれる男に出会ったのでした。
アメリカの競馬場は、勝負師たちにとって、パラダイスのような場所です。現地でのレースが終わると、続いてアメリカの他場で行われるレースがテレビで始まり、競馬場は一転してウインズと化します。そのうちナイターで行われる馬車レースが始まり、なんと香港のレースまで買えたりもするのです。楽しい時間はあっという間に過ぎてゆきます。
このような問いを立て、馬体の見かたについて考えてみることにしたのも、実はあるひとりの男の存在があったからです。僕が彼と出会ったのは、アメリカの競馬場でした。僕は競馬歴が6年目となる時期に、競馬留学と称しておよそ1年間、アメリカのサンフランシスコに渡るという幸運を得ました。サンフランシスコでの生活に慣れるや、僕はベイメドウズという競馬場に通い始めました。当時はシガーという馬が圧倒的な強さで大レースを勝ち続け、アメリカ競馬の話題の中心となっていました。
最初はアメリカ競馬の何から何までが新鮮で楽しかったのを覚えています。アメリカの競馬ファンは、レースがスタートするとすぐに盛り上がり始めます。「Go、Go!」と道中ずっと声援を送るのです。直線になってようやく声が出始める日本とは大違い。これはアメリカと日本のレースの質の違いを表しているのです。スタートしてから息をつく暇もなくガンガン飛ばしていくアメリカ競馬と、道中は折り合いを付けることに専念して、直線でヨーイドンになりやすい日本競馬の違いです。
楽しくて仕方なかったアメリカ競馬ですが、馬券の方はひどい有り様でした。ただでさえ日本に比べると情報が少ない中で、英語の専門用語で書かれた競馬新聞を読んでみても、さっぱり分かりません。前走の着順ぐらいしか、予想するための材料はないように思えました。必然的に少しでも多くの判断材料を求め、馬の馬体を見てみようと、僕の足はパドックへと向かいました。
しかし、ベイメドウズ競馬場のパドックは、僕が考えていたパドックとは違いました。パドックが馬の装鞍所と一緒になっているらしく、次走に出走するにもかかわらず、まだ鞍さえ付けていない馬もいます。出走時間が近づいてくると、おもむろに厩務員らしき人が馬を引き始めたと思いきや、1、2周しただけで、あっという間に本馬場へ向けて僕たちの前から去って行ってしまうのです。馬券を買っている競馬ファンに馬を見せようという意識などひとかけらもありません。各馬の馬体の細かいところを見ている時間などないのです。だからでしょうか、パドックを熱心に見ようという馬券おやじの姿もチラホラとしか見かけませんでした。大勢の人々に囲まれたパドックを、サラブレッドが10分以上にわたって延々と歩かされる日本とは大きな違いですね。良く言えば、馬優先主義ということなのでしょう。
これではパドックも予想の材料にはならないな、とあきらめかけていた矢先、ひょんなことがきっかけで僕はビリーと呼ばれる男に出会ったのでした。
アメリカの競馬場は、勝負師たちにとって、パラダイスのような場所です。現地でのレースが終わると、続いてアメリカの他場で行われるレースがテレビで始まり、競馬場は一転してウインズと化します。そのうちナイターで行われる馬車レースが始まり、なんと香港のレースまで買えたりもするのです。楽しい時間はあっという間に過ぎてゆきます。
ある男との出会い
ある日、競馬に夢中になりすぎて、ふと気が付くと時刻は夜の11時過ぎでした。慌てて競馬場から飛び出し、タクシー乗り場へ向かいましたが、タクシーは1台たりとも見当たりませんでした。周りを見渡してみても、近くにホテルなどあるはずもなく、車で迎えに来てくれる友人もいません。アメリカにやって来て間もない僕でも、夜の競馬場周辺に野宿することが、どれほど危険なことかは分かっていました。生まれて初めて、本気で背筋がゾッとした瞬間でした。
真っ白になった頭でようやく思いついたのは、タクシー会社に電話をしてタクシーを呼ぶという方法です。アメリカにやって来て間もない僕の英語力で、タクシーを競馬場まで呼び寄せる自信などありませんでしたが、そんなことで躊躇している場合ではなかったのです。あたりをキョロキョロと見わたしてようやく公衆電話を見つけました。が、肝心のタクシー会社の電話番号が分かりません。日本のように電話帳などはないのです。こうなったら分からないことは人に聞いてみようと覚悟を決め、競馬場の入り口に立ち、ぽつりぽつりと出てくる男たちのひとりに意を決して声を掛けました。
「Excuse me!Could you tell me~?」(すいません、教えてくれませんか?)
僕が話しかけた長身の男は、彫りが深く、インディアンの血が混じっているような風貌をしていました。 …
真っ白になった頭でようやく思いついたのは、タクシー会社に電話をしてタクシーを呼ぶという方法です。アメリカにやって来て間もない僕の英語力で、タクシーを競馬場まで呼び寄せる自信などありませんでしたが、そんなことで躊躇している場合ではなかったのです。あたりをキョロキョロと見わたしてようやく公衆電話を見つけました。が、肝心のタクシー会社の電話番号が分かりません。日本のように電話帳などはないのです。こうなったら分からないことは人に聞いてみようと覚悟を決め、競馬場の入り口に立ち、ぽつりぽつりと出てくる男たちのひとりに意を決して声を掛けました。
「Excuse me!Could you tell me~?」(すいません、教えてくれませんか?)
僕が話しかけた長身の男は、彫りが深く、インディアンの血が混じっているような風貌をしていました。 …