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馬体の見かた講座
馬を見る上での考え方から各馬体パーツの基本、種牡馬毎の特徴、専門家へのインタビューも
治郎丸敬之 著 / 連載中

2020春クラシックで活躍したクラブ馬の馬体分析【牝馬編】

活躍馬の募集時馬体を振り返る
一口馬主DBのコンテンツのひとつに、過去の名馬の募集時代を振り返る、名馬の募集カタログがあります。連載は終了していますが、僕もたまに思い立ったように眺めてみることがあります。特にロードカナロアの募集時の写真は名画を鑑賞するように繰り返し見て、目に焼き付けていますし、マイネルキッツやウインバリアシオンの典型的なステイヤー体型も忘れないように脳裏に記憶させています。

しかし、クラシックで活躍する馬たちの血統が目まぐるしく移り変わっていくように、馬体も少しずつではありますが変化を重ねています。馬体に古いも新しいもなく、名画は時代を超えて名画ではあるのですが、やはり流行りの傾向や進化した形も見られるものです。

今春のクラシック戦線では、クラブ馬の活躍が目立ちました。せっかくですからこの機会に、名馬の募集カタログをアップデートするつもりで、今年度のクラシック活躍馬の募集時の写真や動画を振り返って見ながら、今後の出資にも役立てて行きましょう。

今年は本当にたくさんの活躍馬が出ましたので、牡馬と牝馬とで回を分け、今回まずは牝馬編として9頭の活躍馬を見ていきましょう。

1. デアリングタクト

撮影時期推定:1歳9月頃
ウォーキング動画
デアリングタクト ノルマンディーオーナーズクラブ
父 エピファネイア 2017-04-15生
募集価格:1760万円 / 400口 (一口 4.4万円)
優駿牝馬(G1) 優勝 / 桜花賞(G1) 優勝 / 秋華賞(G1) 優勝 / ジャパンカップ(G1) 3着 / ジャパンカップ(G1) 4着 / 宝塚記念(G1) 3着 / クイーンエリザベス(G1) 3着 / 金鯱賞(G2) 2着 / エルフィンS(OP) 優勝 / 2歳新馬 優勝
当然のことながら、桜花賞とオークスを圧倒的な力差で勝利し、2冠馬となったデアリングタクトから。今回分析する9頭の中でも最も遅い時期(1歳の9月中旬)に撮影されたカタログ写真だとしても、9頭の中で最も雄大な馬体を誇っているのがひと目で分かります。表現は月並みですが、牡馬顔負けの馬体ですね。この時点ですでに前後躯にしっかり実が入って、胴部にも手脚にも長さがあり、馬体全体のフレームが大きく、首差しの角度も理想的です。

牝馬離れしたフレームの立派さは、父エピファネイア譲りでもあり、母の父キングカメハメハから受け継いだと解釈することもできます。馬体のスケールという点においては、募集時から群を抜いていたということであり、馬体派の一口ファンにとっては出資しやすかったのではないでしょうか。たとえばアーモンドアイのような、募集時のカタログ写真から素質を見抜くことが極めて難しいタイプではなかったということです。

初年度産駒からデアリングタクトという大物を出したエピファネイアですが、僕は種牡馬としての課題は気性面だと考えていました。エピファネイアの父であるシンボリクリスエスの産駒(特に牝馬)がやや期待外れに終わってしまったのは、気性の激しさが大きな原因でした。

エピファネイアも現役時代はコントロールが難しい面があり、育成から調教、レースにおける騎乗に至るまで、ひとつ間違うと潜在能力を発揮できなかった可能性もありました。産駒にも気性の激しさは受け継がれるはずで、それをレースに行っての闘争心や前向きさ(前進気勢)に転換することができれば、大成する可能性を十分に秘めていると占っていたのです。

気性の激しさが仇となってしまっているエピファネイア産駒もいるはずですが、デアリングタクトがそうならなかったのは、母の父キングカメハメハの影響が大きいのではないでしょうか。キングカメハメハは母の父として底力と気性の良さを伝えると僕は考えていますので、デアリングタクトはまさに父と母系の良いところ取りをした馬です。

それはスケールの大きな馬体だけではなく、凛とした表情から伝わってくる賢さにも表れていますね。ウォーキング動画を見ても、そのおっとりとした気性が伝わってきます。まさかここまで走るとは誰も思っていなかったでしょうが、すでに募集の時点で、肉体面においても精神面においても非の打ち所がなく、完成度の高い、お買い得の馬であったことは間違いありません。


2. レシステンシア

撮影時期推定:1歳8月頃
レシステンシア キャロットクラブ
父 ダイワメジャー 2017-03-15生
募集価格:2600万円 / 400口 (一口 6.5万円)
香港スプリント(G1) 2着 / 阪神ジュベナイルF(G1) 優勝 / セントウルS(G2) 優勝 / スプリンターズS(G1) 2着 / 高松宮記念(G1) 2着 / 桜花賞(G1) 2着 / NHKマイルカップ(G1) 2着 / 阪急杯(G3) 優勝 / ヴィクトリアマイル(G1) 3着 / ファンタジーS(G3) 優勝 / チューリップ賞(G2) 3着 / 2歳新馬(牝) 優勝 / 1351ターフスプ(G3) 5着
桜花賞とNHKマイルCはともに2着と惜しい競馬をしましたが、阪神ジュベナイルフィリーズでは驚異的なスピード能力を見せて圧勝したレシステンシアは、デアリングタクトとは好対照な馬体です。

胴部は詰まって映るので、距離適性としてはマイル戦が持つかどうかというイメージですね。ダイワメジャー産駒らしい馬で、脚も真っ直ぐに伸びて健康そうですし、しっかりした腹袋の大きさからはカイ葉食いの良さが伝わってきます。前後躯にしっかりと実が入り、筋肉量が豊富で、特にトモの実の入りには目を見張るものがあります。きりっとした目つきを見ても、気性の激しさをスピードに転換していくタイプの馬であることが分かります。

僕は以前このコラムにおいて、ダイワメジャーの一流馬を狙うための条件として、以下のように語りました。

ダイワメジャー産駒は安定して走るのが特徴なのですが、あえて一流馬もしくは超がつく一流馬を狙うとすれば、筋肉の柔らかい馬、そして硬くならない馬を探すべきです。筋肉の柔らかさに関しては、さすがに募集時の写真だけでは分かりにくいので、募集馬見学ツアーに行ったり、動画(DVD)を観たりするべきです。力強いというよりは、むしろ滑らかに柔らかく歩けている馬を見つけるということなのですが、実際にレースを使われてから筋肉が硬くなってくることが多いので、さすがにそこまでは見極められません。答えになっていないかもしれませんが、馬格や馬体の大きさなどといったハード面ではなく、筋肉の質といったソフト面は、実際にたずさわっている関係者からの情報や血統を頼りにするしかありませんね。いずれにしても、ダイワメジャー産駒が大成するかどうかは筋肉の柔らかさにかかっていることは確かです。



まさにレシステンシアは大成したダイワメジャー産駒です。会員の方はぜひともウォーキング動画を観てもらいたいのですが、身体を大きく使って、ゆっくりと歩けていて好感が持てますね。この時点では筋肉の柔らかさが伝わってきて、出資したいダイワメジャー産駒です。

ただし、その後、調教を重ねて、レースを使われて筋肉の質がどうなるかが課題ですので、こればかりは競走馬としてデビューしてみないと分かりません。実際にレシステンシアも阪神ジュベナイルFのときは柔らかな筋肉がふっくらと付いていましたが、桜花賞やNHKマイルC時は完成されてきたのと同時に、馬体が枯れて(余計な筋肉が削ぎ落されて)、筋肉の質としてはやや硬くなってきた印象を僕は抱いていました。秋以降、柔らかみが保てなくなってくるとすれば、戦績は下降気味になるかもしれません。できるだけレースを使わずに、狙ったレースだけを走らせた方が良いタイプであることは間違いないでしょう。


3. ウインマリリン

撮影時期推定:1歳6月頃
ウォーキング動画
ウインマリリン ウインレーシングクラブ
父 スクリーンヒーロー 2017-05-23生
募集価格:2400万円 / 400口 (一口 6万円)
香港ヴァーズ(G1) 優勝 / オールカマー(G2) 優勝 / 日経賞(G2) 優勝 / フローラS(G2) 優勝 / 優駿牝馬(G1) 2着 / エリザベス女王杯(G1) 2着 / 札幌記念(G2) 3着 / エリザベス女王杯(G1) 4着 / 天皇賞春(G1) 5着 / BCフィリー&メア(G1) 4着 / 2歳新馬 優勝
次に日高の生産馬であるウインマリリンです。フローラSは実に強い競馬でしたし、オークスも横山典弘騎手の好騎乗もありましたが大健闘の2着でした。

後に登場するウインマイティーと同じく、募集時期だからといって馬がつくり込まれていないため、これまで登場した馬たちの募集時と比べてしまうと、正直見栄えは良くありません。

これはセリ市にも当てはまり、できるだけ高く売ろうと考えると、できるだけ馬を良く見せようとするのは関係者の心理として当然です。セリ当日に向けて、必要以上に栄養価の高い餌をたくさん食べさせたり、筋肉を大きく見せるために必要以上の負荷をかけて運動させたりして、馬をつくるのです。馬をきちんと手入れすることは大切ですが、必要以上につくりすぎてしまうと、馬の自然な成長を阻害してしまうことにつながります。いったん馬をつくって、元に戻すというだけで、この時期の若駒にとっては大きな負担になるのです。セリで高く売れたのは良いけれど、その後、馬が萎んで崩れてしまって…、と嘆く関係者は少なくありません。だから、見栄えは良くないかもしれないけれど、あまり手を加えることなく、あえてそのままの姿でいる方を選択する生産者も増えてきています。長い目で見ると、その方が馬にとっても購買者にとっても良いからです。

同様の潔さがウインの募集馬からは感じられますね。こういう場合は、パッと見の良さではなく、その馬の本質を馬体から観ようとすべきです。ウインマリリンは、5月23日の遅生まれとは思えないほど、馬体のフレームが大きくて、付くべきところに筋肉が付いてしっかりとしていますね。ひと言で言うと、バランスが抜群に良いです。首の太さや長さ、そして角度、前後躯の適度な発達、腹袋の大きさなど、あと1年後には良い馬になっているのだろうことが想像できる馬体です。本質を観るということは、未来を想像することに近いかもしれません。


4. ウインマイティー

撮影時期推定:1歳6月頃
ウォーキング動画
ウインマイティー ウインレーシングクラブ
父 ゴールドシップ 2017-04-01生
募集価格:1400万円 / 400口 (一口 3.5万円)
マーメイドS(G3) 優勝 / 優駿牝馬(G1) 3着 / 忘れな草賞(OP) 優勝 / 京都大賞典(G2) 3着 / マーメイドS(G3) 2着 / 2歳新馬(牝) 4着
続いて、オークスではあわやのシーンを作り出して3着と好走したウインマイティーです。 …
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第83回 2020春クラシック活躍馬の馬体分析【牝馬編】
著者
治郎丸敬之
新しい競馬の雑誌「ROUNDERS」編集長。週刊Gallopにてコラムを連載中。当コラムの書籍も発刊
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